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藪の中

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藪の中

Written by: 芥川 龍之介
Narrated by: 村上 めぐみ
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代々江戸城の茶室を管理し、将軍や大名に茶の接待をする「奥坊主」と呼ばれる職を務めた家柄に育ち、文芸や芸事への興味・関心を早くから持っていた芥川龍之介。 才気にあふれ、世話好きな性格は周りの人々を惹きつけ、たくさん悩みながらもよく笑い、よくしゃべる人だったそうです。 そんな芥川は、東京帝国大学に入学した翌年、高校の同級だった久米正雄らと共に第三次「新思潮」を創刊し、小説や翻訳を発表しました。 次いで第四次「新思潮」を創刊の際に掲載した『鼻』が夏目漱石に認められ、文壇に登ることとなりました。 その後新聞社に入社し、記者としてではなく専業作家として意欲的に執筆活動を続けました。 芥川は、漱石や森鴎外から文体や表現の影響を受けたり、キリシタンもの、江戸を舞台にしたものなど題材に応じて文体を変えたりと、意識的な小説の書き方をしていました。 また、鈴木三重吉により創刊された児童雑誌「赤い鳥」には、初となる童話作品『蜘蛛の糸』を発表、その後も同雑誌を中心に童話作品を相次いで発表し、幅広く作品を世に残しています。 さようでございます。 あの死骸を見つけたのは、わたしに違いございません。 わたしは今朝いつもの通り、裏山の杉を伐りに参りました。 すると山陰の藪の中に、あの死骸があったのでございます。 あった処でございますか? それは山科の駅路からは、四五町ほど隔たって居りましょう。 竹の中に痩せ杉の交った、人気のない所でございます。 死骸は縹の水干に、都風のさび烏帽子をかぶったまま、仰向けに倒れて居りました。 何しろ一刀とは申すものの、胸もとの突き傷でございますから、死骸のまわりの竹の落葉は、蘇芳に滲みたようでございます。 いえ、血はもう流れては居りません。 傷口も乾いて居ったようでございます。 おまけにそこには、馬蠅が一匹、わたしの足音も聞えないように、べったり食いついて居りましたっけ。 太刀か何かは見えなかったか? いえ、何もございません。 ただその側の杉の根がたに、縄が一筋落ちて居りました。 それから、――そうそう、縄のほかにも櫛が一つございました。 死骸のまわりにあったものは、この二つぎりでございます。 が、草や竹の落葉は、一面に踏み荒されて居りましたから、きっとあの男は殺される前に、よほど手痛い働きでも致したのに違いございません……©2022 PanRolling Literary Fiction World Literature
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