登場人物 ・女性(39歳)・・・IT企業でWebデザイナーをしている。彼とはつきあって2年目(CV:桑木栄美里) ・男性(37歳)・・・大手弁護士事務所で働くジュニア弁護士。シニアを目指している(CV:日比野正裕) <女性39歳/男性37歳> (SE〜空港の雑踏) 女性: 「それじゃまた・・・」 男性: 「ああ。また来年」 女性: 今年も私たちの逢瀬は終わった。 一年に一度。 牽牛・織女(けんぎゅう・しょくじょ)の伝説のように、 天の川を超えて彼に会いにいく。 こと座のベガ、わし座のアルタイル。 これに、はくちょう座のデネブを加えた、 ”夏の大三角”が東の空へ昇るころ、私は機上の人となる。 (SE〜飛行機が離陸する音) (SE〜飛行機の機内) 機内アナウンス: 当機は今、中部国際空港への着陸態勢に入っております。 天気は晴れ、時間は9時5分です。 お座席、テーブルは元の位置にお戻しになり、シートベルトをご着用ください。 女性: 次の年も約束の日がめぐってきた。 紙のタンブラーからエスプレッソを飲み干し、 スマホでモバイルチケットを確認する。 今日はいつもの往復搭乗券ではない。 大切な話を彼にするために、片道(ワンウェイ)チケットだ。 (SE〜空港のロビー/スーツケースを引く音) 女性: 早く会いたい。彼の顔が見たい。 ボーディングブリッジを通り、到着ゲートを抜け、 検疫検査、入国審査をすませ、手荷物を受け取って到着ゲートへ。 私は足早に到着ロビーで待つ彼の元へ・・・ え・・・いない・・・? 彼の姿が見当たらない。 いつもミーティングポイントの一番前で私を出迎えてくれるのに。 時間まちがえてる? ううん、仁川(インチョン)でトランジットの際に、LINE入れてるもん。 不安な思いが一気にからだ中をかけめぐる。 まさか事故にでもあったのかしら? だめだめ、不吉なこと考えちゃ。 いいわ、30時間のフライトでくたくたなんだから、 カフェでお茶でも飲んで落ち着きましょう。 (SE〜LINEの着信音) 女性: あ、LINE。彼だわ。 え?プレミアムラウンジにいる・・・? どういうこと? (SE〜プレミアムラウンジ) 男性: 「こっちこっち」 女性: 「どうしたの?ラウンジなんかで」 男性: 「実は見せたいものがあるんだ」 女性: 「なに?」 男性: 「これ・・・」 女性: 「なにこれ?」 男性: 「L.A.の弁護士事務所からのオファーだよ」 女性: 「え・・・どういうこと?」 男性: 「僕もL.Aに行く」 女性: 「え〜!」 男性: 「もう離れていたくないんだ」 女性: 「そんな・・・」 男性: 「一緒にいたいんだ」 女性: 「でも・・・」 男性: 「でも?・・・同じ気持ちだと思ったのに・・・」 女性: 「同じ気持ちだよ」 男性: 「じゃあどうして・・・」 女性: 「だって私、もうL.Aに戻らないつもりで帰ってきたんだもん」 男性: 「え・・・」 女性: 片道(ワンウェイ)チケットの理由は、L.A.の支社を退職してきたから。 年に一度の逢瀬で我慢できるほど、私は若くない。 会社に伝えた退職理由は、ベッドとマットレス。 ”外国人の体型に合わせたマットレスでは、とても熟睡できません。 何年ものストレスで身も心もくたくたです” これがオフィシャルな理由だ。まあ、間違いではないけれど。 でも本当は・・・ただただあなたに会いたい! 男性: 「そうだったんだ・・・」 女性: 「そうよ。だからL.A.からのオファー、ことわって」 男性: 「え〜」 女性: 「まずは、インテリアショップへ行きましょ。 2人でゆったり寝られるサイズで 体を包み込むようなコイルスプリングのマットレス、買わなきゃ」 男性: 「え・・・ってことは・・・」 女性: 「1分でも1秒でも、長く一緒にいたいの」 男性: 「異議なし」 女性: 私たちはコーヒーを何杯もおかわりしながら、これからのことを話し合った。 一番近い未来の予定はもちろん、インテリアショップ。 2人だけの生活の準備、はじめないと。 彼の腕にくっつきながら、私はもうワクワクがとまらない。 幸せはこうやって自分の手でつかんでいく。 それが私の生き方だから。