登場人物・彼女(25歳)・・・インテリアコーディネーター/大学卒業後インテリアで課題を解決する仕事に憧れて現職に就く(CV:桑木栄美里)・彼(37歳)・・・公認会計士/30代になって国家試験に合格。リモート打合せが増えてきたためコーディネーターに部屋のインテリアを相談中(CV:日比野正裕)<シーン1:現在/インテリアショップ>(SE〜インテリアショップの店内)彼女: 「遅くなってごめんなさい!」彼: インテリアショップの入口。 階段横にディスプレイされた華やかな絵画を見ていた僕の元へ 息をきらして彼女が走り込んできた。 彼女は、インテリアコーディネーター。 先月リノベーションした僕のアパートのインテリアを考えてくれている。 今日はインテリアショップの店内で、プランを聞かせてくれるそうだ。彼女: 「ずいぶん待たせちゃいましたよね」彼: 「いえ、僕もいま来たところです」 と、答えたけど、それはうそだ。 20分前にインテリアショップに着いた僕は、 ずうっと階段横のところにあるキラキラした絵画を見ていたんだ。 だから、待たされた、という感覚はない。 不快な気持ちがないのだから、 いま来た、と言っても気分的に差し支えないんじゃないかな。彼女: 「こういうキラキラ系の絵が好きなんですか?」彼: 「はあ、あまり派手すぎるのは苦手なんですが、 なんか、このモンローに魅入られちゃいまして・・・」彼女: 「今回のプランに入れましょうか」彼: 「いや、それは、どちらでも・・・不自然じゃなければ」彼女: 「うふふ、検討してみますね」彼: どうも僕の性格的に、イニシアティブをとっているのは彼女のようだ。 ま、クライアントとインテリアコーディネーターという関係なのだから 問題ないのだが。 僕は30代になってから国家試験に合格した遅咲きの公認会計士。 お客さんは若い経営者が多いからだろう。 僕は毎日のように対面でなくリモートミーティングに追われている。 そんなとき、このインテリアショップで彼女と出会った。 街では、街路樹が色づき始める頃だった。<シーン2:3か月前/インテリアショップ>彼女: 「ええ、それはスペース的には難しいかもですね。 あ、でも、家具の色をオン・オフで分ける、という方法もありますから。 一度プラン出してみますね」彼: 聞くとはなしに聞こえてきてしまった電話のやりとり。 ホームオフィスのコーナーで イヤホンを耳につけた彼女が忙しそうに会話していた。彼女: 「わかりました。 では、来週。リモートで打合せしましょう」彼: 電話をきって顔をあげた彼女と思わず目が合ってしまった。 あわてて目を伏せる彼女に、僕は大胆にも声をかける。 いつもの僕なら絶対にありえない行動パターンだけど。彼: 「あの・・・インテリア関係の方ですか?」彼女: 「え・・・」彼: 驚いて顔をあげた彼女はとまどいながら答える。彼女: 「ええ。でも、このお店のスタッフではありません」彼: 「あ、はい。わかります。 実は・・・僕、最近、リモートミーティングが増えてきちゃって ホームオフィスのコーナーを見てたんですけど・・・」彼女: 「ああ、じゃあ店員さんに聞いたら・・・」彼: 「はい。でも、その前にあなたの話が聞こえちゃったので・・・」彼女: 「まあ」彼: 「あ、いえ、決して、盗み聞きしてたんじゃあないんです。 今さら、と言われそうですけど、 僕のアパートには、ホームワークの環境が全然整っていなくて。 だからせめて画面に映る背景くらいは、ちゃんとしておきたい。 でも、自分ではどうしたらいいかわからない。 途方にくれていたときに。あなたの声が耳に飛び込んできたんです。 あ、なんか、まくしたてちゃってごめんなさい!」 気がつくと、彼女は笑っていた。 気がつくといなくなっていた、という顛末を想像していた僕にとっては 予想外の嬉しいリアクションだ。彼女: 「よかったら、詳しくお話を聞かせていただけます?」彼: 「ホントですか」 こうして僕たちは、クライアントとして、インテリアコーディネーターとして このあとも顔を合わせることになった。<...