米国の相互関税導入がアジア経済におよぼし得る影響について、弊社アジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤが、そのリスクに直面している主要市場に焦点を当てながらお話しします。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日の話し手は、弊社アジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤです。米国が相互関税をアジア諸国に課す可能性に関する自身の見解をお話しします。 このエピソードは2月11日 にシンガポールにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。トランプ大統領による最近の関税強化の動きは、2018年から2019年にかけて進められた関税強化の規模をすでに大きく上回っています。実際、今回の場合、複数の貿易相手国が同時に一律関税の対象となっており、また、関税引き上げは前回より遥かに速いペースで実施されています。こうした中、貿易問題の拡大リスクは急速に高まりましたが、最新の動きによってリスクは一段と高まった可能性があります。トランプ大統領は、外国製の鉄鋼・アルミニウム製品すべてに一律25%の関税を課す政策を推し進めようとしています。また、貿易相手国の製品にそれぞれの国が米国製品に対して課している関税率と同じ関税率を課すことを目的に、複数の国に対して相互関税を導入する可能性を示唆しました。相互関税が導入されれば、中国を除くアジア諸国は、米国の関税引き上げリスクにさらに晒されることになります。なぜなら、現時点でアジア諸国が米国製品に課している関税率は、多くの場合、米国がアジア製品に課している関税率よりやや高いからです。また、入手可能な最新データに基づくなら、アジアの6ヵ国が米国製品に課している加重平均関税率は、米国がアジア諸国それぞれの製品に課している加重平均関税率より高くなっています。米国との関税率の差が最も大きいアジアの国は、インド、タイ、韓国です。ゆえに米国が相互関税を導入した場合、この3ヵ国に対する加重平均関税率は4-6パーセントポイント引き上げられる可能性があります。製品によっては関税率がさらに大幅に引き上げられる可能性もありますが、私たちの考えを言えば、鉄鋼・アルミニウム製品に対する一律関税や相互関税実施によってこの3ヵ国の経済が手に余るほど深刻な悪影響を受けることはないでしょう。しかし、対米貿易黒字が最も大きい世界10ヵ国のうちの7ヵ国がアジアの国々であることを踏まえると、貿易摩擦がさらに拡大する可能性は残ります。こうした背景を勘案すると、アジアの為政者は、米国政権の要求を満たす取組を模索する必要に迫られるかもしれません。例えば日本の石破首相は、米国向け投資の拡大を約束し、米国からのエネルギー輸入を増やすことを検討しています。いずれも、米国の対日貿易赤字を縮小する前向きな取組と巷では捉えられています。また、インドのモディ首相は、今週行われるトランプ大統領との首脳会談に先立って米国製品に対する関税率を引き下げる措置を講じたほか、首脳会談では、石油、ガス、防衛装備、航空機の輸入を増やす提案をする可能性があります。ただし、中国に関しては、米国との二国間関係に数多くの問題が幅広く存在していることから、米国政権は様々な理由を付けて関税率を引き上げると私たちは考えています。実際、現状を見るに、中国はこれまでのところ、関税引き上げが実施された唯一の国であり、また、最近実施された中国製品に対する10%の関税引き上げ幅は、2018年から2019年までの間に実施された平均加重関税率の引き上げ幅をすでに上回っています。さらに言えば、中国製品に対する関税率は2025年を通して引き続き引き上げられる可能性があると考えます。まとめるなら、米国政権発の関税の脅威は絶え間なく続いています。それでも、関税引き上げの直接的な影響が手に余るほど深刻化...