• ボイスドラマ「信太の森」

  • Jan 31 2025
  • Length: 16 mins
  • Podcast

ボイスドラマ「信太の森」

  • Summary

  • (CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 「本山(ほんざん)へようこそ。ようきんさったの」 温和な表情の住職が、私にお茶をすすめる。 ここは、飛騨高山と木曽福島のちょうど真ん中あたり、 野麦峠の高山側にある苔むした古寺。その名を信太寺(しのだじ)という。 「説話を集めてらっしゃるとか」 「はい、このあたりに伝わる民話を採訪しています」 「まあ、お茶でも飲みながら、くつろいでいきんさい」 私は民俗学者。 晩夏の帰省休暇を利用して長野の善光寺から松本、塩尻と木曽路をくだり、 レンタカーで峠道を抜けてふるさと高山へ向かっている。 ゆうべ木曽福島で一泊し、野麦峠に入ったのはお昼近かった。 「先(せん)の住職から伝え聞いておる話でもええかな」 「はい、お願いします」 「むかぁし、むかし。本山(ほんざん)ができる前の話だそうな」 住職がゆっくり、訥々と語り始める。 飛騨に広瀬(ひろせ)と呼ばれた地域があってな。 緑に囲まれた自然豊かな場所やったから、いろんな生き物たちが暮らしておった。 キツネもタヌキも、クマもリスも・・・ ほんで、村を一望する山の中腹には、村人たちの信仰を集めるお寺があったんやさ。 ある日のこと、寺の住職が小僧さんたちとともに裏手の山へ山菜とりに出かけると 子狐が罠にかかって苦しんどったんやと。 住職は、寺を擁する山で殺生をたくらむとはなにごと! と怒り、子狐を罠から助けて手当をしてやったんだそうな。 小僧さんたちも、住職の命で傷が癒えるまで子狐を手厚く介抱した。 子狐は小僧さんたちになつき、小僧さんたちも子狐を大層かわいがり、 元気になるのを見届けて山へ返してやった。 同じ年の冬、住職は山道で落石に会い、足に大怪我を負ってもうた。 その話をどこで聞きつけたか、太夫(たゆう)と名乗る少年が現れ、 住職を手厚く看護した。 太夫がどこからかとってくる薬草は、傷によく効き、 住職は春を待たずに歩けるようになったんやと。 山につもった雪が溶け始めると、少年は、 下働きでもなんでもするので、寺に置いてほしいと懇願した。 住職はこころよく受け入れ、 太夫は小僧さんたちと寝食をともにするようになった。 実は小僧さんたちには、太夫があのときの子狐だとわかっていた。 布団を並べて寝ているときに、ふかふかの尻尾が布団からはみだしていたんやと。 太夫は、小僧さんたちといっしょにお経を読んだり、座禅をした。 坐禅を組むときは尻尾を出さんように、と住職に言われて太夫は驚いた。 住職も最初から太夫が小狐だと気づいていたんやさ。 それでも太夫はとっても行儀がええので、みんなにかわいがられたそうな。 太夫は、一生懸命修行に励んだ。 毎朝誰より早く起きて本堂を掃除し、夜遅くまでお経を読んで御勤めをした。 しまいにはお経を覚えるのも、坐禅を組むのも、小僧さんの中で一番上手になったんやさ。 やがて、住職は木曽福島のお寺へ新しい住職として呼ばれて行かっしゃった。 お供の小僧さんに指名されたのは太夫。 太夫は大層喜んだが、反面、ほかの小僧さんたちと離れるのは寂しくてたまらず 出発の日まで毎晩みんなで別れを惜しんだんやと。 太夫は木曽福島のお寺で暮らすようになると、一度も狐の姿に戻ることはなかった。 檀家(だんか)のものも誰も太夫の正体を知らなかったんやさ。 一年ほど経ったとき、広瀬のお寺まで手紙を届ける用事ができ、、 その役を太夫がつとめることになった。 太夫はなつかしい広瀬のお寺で大好きな小僧さんたちに会えると、 嬉しゅうて嬉しゅうてどもならなんだんやと。 とはいえ福島から高山の広瀬までは25里(り)以上、 つまり100キロ以上あったからな。お届けものをするというだけでおおごとやさ。 住職は出かける前の太夫に、 「太夫や、お前がどんなに急いでも、ここから広瀬までだと途中一泊せずばなるまいのう。 だが、たとえ一夜の宿でも、決して猟師の家に泊まるではないぞ」 と、きびしい顔をして申しつけた。 太夫は、さっそく身支度を済ませて飛び出していく。 夢中で地蔵峠(じぞうとうげ)を越え、広瀬へいける嬉しさで、 汗...
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