• ボイスドラマ「食卓より愛をこめて」後編

  • Feb 5 2025
  • Length: 10 mins
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ボイスドラマ「食卓より愛をこめて」後編

  • Summary

  • この物語は、家族の絆を「食卓」を通じて描いた、少し懐かしくて温かいストーリーです。登場するのは、一人娘と父、そして母。日々の生活の中で変わるものと変わらないもの――その象徴として「豚汁」が登場します。 豚汁は、日本の家庭で愛される料理のひとつですが、それぞれの家に「味」があるように、それを囲む家族にもそれぞれの「想い」があります。誰かと一緒に食卓を囲むこと、作る人の気持ちを感じながら味わうこと。それは何気ない日常のひとコマかもしれませんが、実は人生の大切な瞬間でもあります。 本作では、そんな「食卓の魔法」が生み出す家族の物語を、心を込めて綴りました。豚汁の湯気の向こうに浮かぶ、それぞれの想いを感じながら、ぜひ最後までお楽しみください。 ◾️登場人物 ・母(54歳/47歳)・・・看護師/名古屋市内の総合病院のERで働く(CV:桑木栄美里) ・父(56歳/49歳)・・・一級建築士/東三河地区で不動産会社を経営(CV:日比野正裕) ・娘(18歳)・・・看護師/名古屋市内の総合病院のERで働く(CV:桑木栄美里) <父56歳/母54歳> (SE〜料理音/包丁で野菜を切る音など) 母: 「ねえあなた、あの娘からきいた?」 父: 食卓に座る妻が、キッチンの私に声をかける。 父: 「なにを?」 私は料理の手を止めずに、妻の方を振り返る。 妻は、少しいじわるそうな笑顔で私の顔を見つめる。 母: 「私たちに会わせたい人がいるって話」 父: 「あ、ああ。聞いてるよ」 私は、つとめて冷静を装いながら答えると、 すぐにキッチンの方へ向きなおった。 妻は体を大きく乗り出し、私の方を覗き込むようにしてまた声をかける。 母: 「だいじょうぶ?」 父: 「な、なにが?」 母: 「あなたの包丁のリズム、長調から短調に変わったわよ」 父: やっぱり、親子だな。 娘と同じことを言う。 あ、いや、感心してる場合ではない。 父: 「なにばかなことを言ってるんだ。 さ、豚汁できあがるから」 母: 「あら、今日も豚汁なの?」 父: 「え」 母: 「あの娘がうちに顔を出した日から、毎日豚汁作ってるわよ」 父: 「え、そうだったかな」 妻がくすくすと音を立てないようにして笑う。 私もそれにつられて、笑う。 実は、我が家の食卓には、私が決めたルールがある。 それは、”食卓に座ったら笑顔になること”。 例外はない。 悲しいことがあったときも、辛いことがあったときも、 とりあえず、食卓に座ったら、難しい顔や怖い顔はやめる。 笑えなくても、口の端を上げる。 不条理なルールかもしれないが、 一応、妻も娘もちゃんと守ってきてくれた。 母: 「そういえばあの娘が家を出る前の一ヶ月間も、あなた毎日豚汁作ってたわねえ」 父: 「え、覚えてないな」 母: 「あら、そう」 父: もちろん覚えている。 <父49歳/母47歳/娘18歳> あれは、娘が大学へ入学する前だった。 私の作る豚汁が食べたい、と、子供の頃のようにせがむ娘。 瞳をうるわせて訴えてくるものだから、私も心をこめて毎日作った。 (SE〜料理音/包丁で野菜を切る音など) 父: 「知ってるかい?豚汁っていうのは意外と奥が深いんだぞ。 まず、鍋に水を入れて火にかけ、沸騰したら一旦湯を捨てるんだ。 それからもう一度新しい水を入れる。 こうすると、スッキリとしたスープに仕上がるんだよ。 具材もただ煮るだけじゃないぞ。 ごぼうは皮をむいて縦に薄切りにしたら、水にさらしてアクを抜くんだ」 娘がまもなくここからいなくなる。 その寂しさを紛らわすように、私は饒舌になる。 娘は黙って、だが、我が家のルールを順守し、笑顔で私の話を聞く。 母: 「パパの豚汁も、あと何回食べられるか、わかんないものね」 父: 「縁起わるいこと言わないでくれよ。 外国へ行くわけじゃないし、 食べたくなったらいつだって帰ってくればいいじゃないか」 母: 「パパの豚汁がこんなに美味しくなったのも、 あなたが子供の頃にいつも豚汁をおねだりしたおかげね」 父: 私たちの会話を、娘はだまって聞いていた。 うるんだ瞳で、口角を上げて、微笑みながら。 母: 「そういえば、この娘...
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