Épisodes

  • ボイスドラマ「バニシングツイン」
    Feb 3 2025
    (CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 ■SE〜終業のチャイム/教室のガヤ 「えっ、私が文化祭の実行委員に・・・・・・!? そんな、む、む、む、無理です・・・ぜったい・・・」(※泣きそうに・・・) 秋風が吹く放課後。 いきなり、文化祭実行委員長からおそろしい宣告をされた。 これだから”陽キャ”は・・・。 きっと私が断れないことを見越してフッてきたんだ。 早く、早く断らなきゃ。 押し切られちゃう前に・・・ 『じゃあ、頼んだよ〜、よろしくね!』 「あ、あ、あの、あの・・・む・・り・・・」 『委員会、明日の放課後だから、遅れないように!』 うう〜。こいつ〜 ”陰キャ”だと思って、”陽キャビーム”全開にして振り逃げしやがった。 くそう・・・ 私って、文化祭実行委員長のアイツにいつも標的にされてるんだよね。 でも、アイツって、なんか、ちょっとだけ、気になるんだなあ・・・ あ〜、でもやっぱり無理。 文化祭の日は、学校サボろうと思ってたのに。 委員会なんて、出たくないよう〜 ■SE〜家庭内のガヤ(お母さんの料理の音など) 『ちょっと、ご飯できてるわよ。食べないの?』 「いらない。食べたくない・・・」 『どうしたの?どっか悪いの?』 「違うけど・・・食欲ない」 『食べないとホントに病気になるわよ』 「病気になりたい・・・」 『バカなこと言わないで』 「あ〜だめだ、委員会のこと考えると吐きそうになる」(※ココ独り言っぽく) 『委員会って?』 「わーやめて。考えないようにしてたのに・・・」 『なんか、言ってること支離滅裂よ』 「支離滅裂でいいもん」 『困ったわね』 「ねえママ。私、明日学校休むわ」 『ええ?』 「ご飯もいらないから。もう寝よっと」 『ちょっと』 こういうとき、自分の母親が精神科医っていうのは、いいのか悪いのか・・・ 今はベッドの中だけが、私の安息空間。 このまま目が覚めなきゃいいのに・・・ ■SE〜朝のノイズ(小鳥のさえずりなど)〜カウンセリングルームの小さなガヤ あれ?ここどこだっけ? え〜っと・・・ あ、ママの病院! カウンセリングルームだ・・・ 『そろそろあなたの引きこもり、なんとかしなきゃって思ってたから』 「なんとかって?」 『退行催眠療法、ためしてみるわね』 「退行催眠療法?」 『時間を遡って、トラウマの原因、さがしてみましょ』 「トラウマなんてないから」 『さ、目をつむって。 リラックス・・・』 目をつむったら寝ちゃいそう・・・ 『あなたの潜在意識に命じます。 過去をずうっと遡って、人と話せなくなった頃の記憶に戻りなさい』 ・・・話せなくなったころ・・・ 3歳・・・2歳・・・もっと前・・・生まれる前・・・ 一瞬目の前が真っ暗になり、再び光に包まれる・・・ ここは・・・? 『やあ、やっと会えたね。エミリア』 「だれ?私、エミリアじゃなくてエミリだけど」 『ああそうか・・・。ボクはエミリオ』 「エミリオ?」 『ボクのこと、覚えてる?』 「わかんない」 『ずうっと君の中にいたんだよ』 「え?」 『あ、ほら。ママが呼んでる』 「なになに?待って待って。まだ話終わってない」 『大丈夫、また会えるから』 そのとき、私は血圧が低下して、ちょっとした騒ぎになっていたらしい。 気がつくと、ママが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。 『よかった、一時はどうなるかと思ったわ・・』 ■SE〜学校のチャイムと放課後のガヤ 『お、ちゃんと委員会にきたじゃん、えらいぞ。 今日はお前が発表する日だからな』 え?はっ・・・ぴょ・・・う・・・? だめだ、目の前が真っ暗になる。 私は思わず、カバンにつけたさるぼぼのキーホルダーを握りしめた。 その瞬間・・・意識が遠のいていった・・・ ■SE〜玄関の扉を開く音 「あれ?私、なんでここにいるの?」 『ちょっと、やめてよ。ヘンなこと言わないで』 「だって放課後の委員会で・・・」 『そうそう。そういえば、あなたが帰る前に委員長さんから電話あったわよ。 お礼言ってた』 「え?なんのこと?」 『あなたの提案した企画、すごくよかったって』 「え?企画?提案?なんのこと?」 『もう〜、いいから早くあがってご...
    Voir plus Voir moins
    20 min
  • ボイスドラマ「飛騨の菩薩」
    Feb 3 2025
    (CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 <プロローグ/日本書紀> 飛驛の国に宿儺という人あり。体は一つで二つの顔があった 天皇に従わず、人民を略奪するのを楽しみとした 難波根子武振熊難波根子武振熊(ナニワノネコ/タケフルクマ)を遣わして殺させた -日本書紀- <シーン1/出羽ヶ平(でわがひら)にて> ■SE〜森の音+村人のざわめき 「なに!?武振熊(タケフルクマ)が攻めてくるだと!?」 大和朝廷から伝令を受け取った家臣の顔は青ざめている。 あの神功皇后の軍を率いた武振熊が、飛騨に宣戦布告をしてきたのだ。 私の名は「句儺=クナ」。 双子の兄は「宿=スク」という。 クナの「儺」という文字は、邪鬼を追い払うという意味。 私はこの飛騨で、神事を司る祭司である。 兄の「宿」という文字は、前世から受け継ぐ力という意味を持つ。 巫女でもあり、弓の名手と言われる私と、超人的な怪力を持つ兄。 私たちは一心同体となり、飛騨の国を護ってきた。 村人たちからは、救世観音(くせかんのん)の化身として敬われている。 ここ飛騨は古くから農耕が盛んで、独自の文化を持ち、栄えてきたところ。 森林資源だけでなく、鉄鉱石などの鉱物資源にも恵まれている。 当然、中央集権をすすめる大和朝廷が黙っているはずはない。 今まで、何度も飛騨に軍勢を送り、攻めてきたが、 山岳地方の地形を生かした戦略で、ことごとく打ち負かした。 だが、いよいよあの名将・タケフルクマが参戦する。 今までのようには簡単にいくまい。 強者の兄・スクも私を呼び、2人で戦略を考えなければならない。 ■SE〜夜の森/虫たちの鳴き声 いつものように出羽ヶ平の洞窟で思案しているとき、 一人の少女が入口からのぞきこんだ。 「どうしたんだい?」 私の問いかけに無邪気な笑顔で答える少女は、 ”食べてください” と言って握り飯を私たちに手渡す。 つやつやと輝く米粒を口に運んでから 兄と私は顔を見合わせ、大きくうなづいた。 この子たちを守らなければ・・・ ■SE〜朝/小鳥のさえずり 翌朝、村人たちを集めて、私が宣告する。 「私と兄はこの村を出て、大和朝廷を迎え撃つ。 ともの兵士も最小限にする。 万が一、我々が破れてもみなは決してヤマトに抗ってはいけない」 どよめきがおこる。 兄はすかさず、巨大な鉄剣を地面の岩にうちつけ、村人の注目をひく。 米づくりの長、最古参の女性は、 ”せめて最後の食事でもてなし、二人のご武運を祈願したい” と懇願した。 仕方なく同意するが、今晩から位山(くらいやま)に向けて出発するので 食事は道中でとると伝えた。 昨夜の少女は、状況を知ってか知らずか、瞳いっぱいに涙をためている。 「大丈夫。ただ討ち死にはしない。 みなを護ることをここに約束する」 今度は歓声に包まれる。 兄に目配せをして、我々は洞窟に戻った。 ■SE〜夜の森/フクロウの声 大和朝廷の軍勢は、我々の10倍はくだらない。 その条件で戦うには、戦略しかないだろう。 村人たちに惜しまれつつ出発した我々は、夜が明ける前に位山へ登った。 地の利を生かす戦術と、霊峰・位山のご加護を信じて。 <シーン2/位山にて> 夜明けを待たずにタケフルクマの軍は迫ってきた。 そしてついに開戦。 我々は山の上からの奇襲で先手をとる。 ■SE〜合戦の音 戦いは一昼夜に及んだ。 歴戦の勇者たちの活躍。 森の大木を流星刀で薙ぎ倒し、敵目掛けて投げつける兄。 正確に迅速に弓矢を射る私。 物量では劣るものの、超人的な我々の兵力に、タケフルクマは苦戦しているようだ。 だが、戦いに時間がかかるほど、兵士たちには疲れが見えてくる。 仕方なく、いったん頂上付近の我々の本陣、洞窟へとひくことになった。 洞窟へ戻ったとき、我々は信じられないものを目にする。 ”食べてください” なんと、あの日の少女が、握り飯を持ち、洞窟で待っていたのだ。 満面の笑顔で。 ”武器を運ぶ籠の中に隠れていたようです” またしても、兄と顔を見合わせる。 すぐに二人で少女の方へ向き直り、 ”ありがとう。えらかったね” と労を労う。 そのまま、友軍の方へ振り向き、戦略を伝える。 「...
    Voir plus Voir moins
    11 min
  • ボイスドラマ「常世の浦島台」
    Feb 2 2025
    (CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 [シーン1:プロローグ/秋の高山祭】 ■SE〜秋の高山祭の音 「そーれ!」 絢爛豪華な屋台が一堂に引き揃えられる秋の高山祭。 櫻山八幡宮の境内では今ごろ、布袋台が、見事なからくりを奉納していることだろう。 このあとは、大きな見せ場、屋台を転回させる『曳き回し』だ。 私と一緒に屋台組を復活させてがんばってきた、同級生の彼も 曳子(ひきこ)に徹して掛け声をあげる。 実は私たちの屋台、浦島台にもからくりの仕掛けがある。 名古屋のからくり人形師に頼み込み、10年越しで制作してもらった。 『常世の浦島子』という、私たちが考えたからくりだ。 ■SE〜からくりの音 海で大亀を釣った浦島子。 その後亀は美女に姿を変え、2人で常世の国へ行く・・・ という万葉集をルーツにした物語である。 二重三重にうねる波。 船から釣り糸を垂らす浦島子。 やがて釣り上げた亀が美女に変わるクライマックス。 ラストは常世の国から戻った浦島子が、 玉手箱により、300年の時が流れていたことを知る。 時の流れを見せるのは、煙ではなく、走馬灯を使って 浦島姫との蜜月を表現した。 そのあと浦島子の顔があっという間に老人に変身するシーンは最大の見せ場だ。 ■SE〜観客の大歓声 私は、この10年を思って、目頭が熱くなった。 思えば、初めて『浦島台』という名前に出会ったのは10年前。 私がまだ15歳。 高校1年生のときだった。 [シーン2:失われた屋台との出会い/高校1年】  高山屋台の保存会の人が、私たちの学校へやってきて、 いろいろな屋台のエピソードを聞かせてくれた。 その中で、私が興味をそそられたのは、『失われた屋台』。 火事などで消失してしまった幻の屋台があると聞いて驚いた。 『失われた屋台』はひとつだけではない。 春の高山祭、秋の高山祭ともに、その数8つ。 なかでも『浦島台』には特に心惹かれた。 『浦島台は、文化十年(1813年)の記録が残っている歴史ある屋台。 でも、明治8年の高山大火で焼けて、そのあとはもう建造されていないんだよ』 その頃、私は読み聞かせのボランティアもやっていて民話や伝承を読み漁っていた。 おとぎ話ではなく、日本書紀や万葉集の『浦島子』。 その不思議な話と『浦島台』という名前の符牒が私を惹きつけた。 同じボランティア仲間の同級生たちも同じ理由で、興味をもったらしい。 その中のひとり、同じクラスの彼は、なにを隠そう私の初恋の相手だったけど、 当時から彼の横には彼女がいた。15歳なのに。 それでも私たちの思いはひとつになる。 この日からボランティアの現場で何度も話し合った。 ”浦島太郎伝説を題材にしたカラクリ人形も仕込まれてあったんだって” ”屋根は切妻風で、三輪の屋台というらしい” ”祭礼の時には提灯を掲げて、五色の旗を掲げていたんだ” ”台紋のデザインは波もよう” ”浦島台”をもう一度高山祭の舞台へ” 私たちは時間を忘れて、浦島台復活の計画を語り合った。 もちろん、彼の隣には彼女もいたけれど。 ”まずは、屋台組を復活させなきゃ” そもそも、屋台組というのは、お金を出し合って屋台を維持管理していく仕組み。 高校生の私たちに、そんな余裕があるはずもない。 ”クラウドファンディングっていうのは?” ”あ・・・” 誰が言い出したのかは忘れちゃったけど、それっていいアイディアだったと思う。 私たち3人は、ネットで一生懸命調べて、高校生でも参加しやすいサイトを探した。 長期スパンで継続できて、文化的な題材に強いクラウドファンディング。 授業で習ったパワーポイントで必死に事業計画書を作り、 選び抜いたクラウドファンディングのサイトへアップする。 ”秋の高山祭に失われた屋台を復活させたい!” ”オリジナルのからくり屋台を作りたい!” ”屋台組を作り屋台をずうっと守っていきたい!” ”みなさん、どうか、助けてください!” 私たちのアーカイブには、高校生らしい文字が踊る。 熱意は、ネットを通じて、さまざまな人たちへ伝わっていった。 [シーン3:クラウドファンディング/大学生】  目標額は1億! 高校を卒業したあとも、大学...
    Voir plus Voir moins
    14 min
  • ボイスドラマ「氷の温もり」
    Feb 2 2025
    【プロット】 主人公(栄美里)は江戸時代から続く元武家の旧家の一人娘として育つが、父亡きあと、母は落ちぶれた武家の屋敷へ後添えとして嫁いでいく。義理の父や義姉たちは栄美里の器量を妬み、奉公に出される。奉公先は、悪徳高利貸しとして名高い一人暮らしの男性。 怖がりつつも炊事洗濯と家事をこなす栄美里は、男性の表と裏の顔を知る。 表面的には冷たい高利貸しとして金持ちの商家や元武家屋敷から金を貸し、取り立てる。 その一方、いつも勝手口から男性を訪ねてくる粗末な身なりをした子どもたちやお年寄りは涙を流しながら帰っていくのだった。 男性のその裏の顔とは・・・(CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 <シーン1/旧武家屋敷にて> ■SE〜古い町並のガヤ/箒で掃除をする音/古い木戸が開く音 「あ・・・、おはようございます」 私は、小さく、唇だけの笑顔で家族にあいさつをする。 家族? 誰も私を見ても声すらかけない。 いや、見てすらいない。 存在さえ否定されていて、”家族”と呼べるのだろうか。 ここは、旧高山城の城下町。 かつて幕府直轄の天領だったのが嘘のようだ。 街道沿いには、飛騨の木工技術を競うように、瀟洒な町屋が並んでいる。 その町家より一段高いところにあるのが、かつての武家屋敷だ。 私の母は、実父亡き後、武家屋敷のひとつに、後添えとして入った。 連れ子の私と一緒に。 義理の父は世間体を気にする人だったので、私は母の使用人として屋敷にあがった。 そこまでして義父(ちち)が母に焦がれたのは、 その美貌と亡くなった連れ合い=私の実父の財産だ。 当時若干8歳だった私には、なんの迷いもなく、 優しい母とまた一緒にいられることが嬉しかった。 時は移り、明治も終わり頃になると、少女の私にもいろいろなことが見えてきた。 この武家屋敷にはいまや昔日の勢いはなく自転車操業であること。 母の持参金を、義父とその娘たちで使い果たしてしまったこと。 そして、2人いる義理の姉は、私を使用人としか見ていないこと。 そう、私が称された”使用人”というのは建前だけではなかったのだ。 そんななか、突然母が病に倒れた。 働かない義父や、浪費癖のある義姉(あね)たちの分まで、 家事をしながら朝から晩まで働き続けたからだ。 床に伏せる母を看とったのは私ひとり。 やがて看病のかいもなく、母は私を遺して逝ってしまった。 葬儀の最中、義父は私に信じられない言葉を告げた。 ”お前には奉公に出てもらう” 義父の横で、喪服姿の義姉が笑いを噛み殺している。 言葉をよく理解できない私の耳元に、義姉たちのささやきが響く。 ”強欲な高利貸しのお宅ですって” ”無事でいられるかしら” もの言わぬ母の遺影が、憂いを帯びて私を見つめていた。 <シーン2/高利貸・岩佐宅> ■SE〜古い町並のガヤ/下駄の音 「しつれい・・・いたします」 木戸を開けようとしたが、鍵がかかっている。 悪名高い『高利貸し』だと言われたけど、どこにも看板は出ていない。 義父から聞いた『岩佐』という苗字の表札だけが頼り。 思い切ってもう一度木戸に手をかけたとき・・・ ■SE〜古い木戸が開く音 「あ・・・」 木戸を開けて顔をのぞかせたのは・・・ 年の頃なら三十五、六・・・ 長髪で端正な顔つきの男性だった。 「あの・・・今日からご奉公にまいりました・・・栄美里と申します」 彼は、言葉を発せず、目線を家の中に向けて、入るよう命じた。 義父は、しばらくは帰ってこないように、と言って私を送り出している。 奉公人は私だけ。 だから、私はこれから、この人と・・・ 訳もなく無言で涙が溢れた。 ■SE〜食事の準備をする音 炊事、洗濯、庭掃除・・・ ここへきて3月(みつき)の歳月が流れた頃、やっと奉公にも慣れてきた。 家の主人は相変わらず、ほとんど私に対して口をきかない。 いや、私にだけではなく、お金を借りに来るお客さんに対しても 必要最低限の言葉しか話さない。 彼が最初、私に命じたのは、3つ。 ”ひとつ。金を借りにくる連中は玄関横の座敷に通すように” 私が取り次ぐお客さんは、お金持ちの商家や武家屋敷の元お侍...
    Voir plus Voir moins
    17 min
  • ボイスドラマ「白亜紀より愛をこめて」
    Feb 1 2025
    (CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 ■シーン1/発掘現場/SE〜発掘の音 「ちょっと、いま何捨てた?」 「見せて」 「もっとよく見ないと。これ、蜂の巣サンゴの化石だよ」 ここは奥飛騨温泉郷(おくひだおんせんごう)の福地(ふくじ)。 私は地元の高校2年生。いわゆる”JK”である。 全国でも珍しい『化石部』の部長をつとめている。 化石の発掘って許可がいるんだけど、 うちの学校は実績もいろいろあるから市から特別に認められてるんだ。 ま、コンプライアンスは大事だから、保護者の健康保険証のコピーとかはいつも持ち歩いてるけどね。 もともとは、サイエンス部化石発掘体験科という名前だったけど、 長ったらしいし、覚えにくいので私が『化石部』に変えた。 知ってる?高山って日本最古の化石が発掘されたところなんだよ。 ここんとこ話せば長いから、おいおい説明していくわ。 ところで、さっきから黙って地層をジロジロ見てるアレ、誰? イケメン? どこがー?興味ないし。 そう思うんならLINE交換すればー。 え?新しい部員?1年生?聞いてないよ。 さっき顧問の先生が紹介したって? ぜんっぜん覚えてないなあ・・・ あ、そっか。私、配信で『NHKスペシャル〜生命(せいめい)』見てたんだ。 ま、いいや。 「ちょっと、あんた。なにやってんの?」 え?植物の化石? どこに? 地層の中にある茶色の点とすじ? 植物の化石から出ている信号だって? なに、この1年生。 自分の世界に入っちゃって。 ”神の手”? なにが? え〜こいつが〜!? なーんか、その名前からして胡散臭いなー。 ワンチャン、T-REXかなんかの発掘でも狙ってるんじゃね? あ〜いやいや、なんも言ってないし。 『あのう、ひとつ聞いてもいいですか?』 「あっ、あー、いいけど」 『ここで見つかった日本最古の化石って』 「なに?コノドント?」 『はい、それって、海洋生物ですよね?』 「そ、カンブリア期の生き物。NHKスペシャルみた?」 『いえ、見たことありません』 「恐竜じゃなくて、こんなジミな生物に興味があるの?」 『っていうか、地層に興味あって』 「チソー?」 『どうしてこここんなに標高高いのに、海の生き物の化石が出るんすかね?』 「そりゃ、昔海だったからに決まってるじゃない」 『それって、恐竜の時代とかよりうーんと前ですよね』 「まあね、私が生まれる前だし」 『・・・』 なんだよ、そこツッコむとこだろ。 やなやつだなー。 『僕、古生代の地層ヲタクなんです』 「なんじゃそれ、ニッチやのう」 『僕の夢はアロマノカリスの完全な化石を発掘して全身骨格標本をつくること』 「まー、夢は大きい方がいいけど、ニッチすぎてつっこめんぞ」 「そもそも9月に入部って。4月からなにやっとったん?」 『モンゴルに化石留学してました』 「化石留学!」 「大型恐竜の発掘隊にでも加わっとったんか」 『大型恐竜の足跡の化石を発掘してました』 言葉をうしなった。 なんか・・・すごい。 だからかー。 なんかたいそうな発掘セット持ってるなーって思ったわ。 ハンマーなんてチタンだし。 1万円以上するんとちゃうか。 あーもう、考えるの、やめたやめた。 人は人。私は私。 夢なら私にもあるんだよ。 いつか地元で新種の恐竜化石を発掘して、自分の名前をつけること。 エミリザウルスとか、エミリドンとか・・・ なんか美味しそうだな。 それに、私には推しの先輩だっているからいいんだ。 大学の研究室に進んだ先輩。 恐竜の謎に迫るんだ、っていつも目をキラキラさせてたなあ。 『あ、その先輩しってます』 「って、えー!? なんだおまえ急に、人の心を読むんか?スタンドか?」 『いえ、先輩、自分でぼそぼそ言ってましたから』 不覚・・・ 「まあいい、でも知ってるって?」 『モンゴルで一緒でした』 「えっ・・・」 聞いてないよー。ずうっと岡山の大学院にいるって思ってた。 『奥さんも一緒でしたけど』 「奥さん・・・」 私のボキャブラリーにない単語が頭をかけめぐる。 「ふうん・・・ま、いいや。さ、無駄話はやめて発掘にもどろ」 ■シーン2/自宅 そのあと、何を発掘してどうやって家に帰ったか覚...
    Voir plus Voir moins
    12 min
  • ボイスドラマ「You've got a friend」
    Feb 1 2025
    (CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 ■踏切+セミの声 ※笑い声から あの日 夏の終わりの風が吹いてたあのとき 高山線の小さな踏切から 君は空へ舞い上がっていった・・・ ■教室のざわめき 桜の蕾がようやく膨らみ始めたころ 彼女は僕の学校へ転校してきた 先生が決めた彼女の席は僕の隣り よろしくね と声をかけたのは僕のほうから 彼女は満面の笑みで答える 友だちになりましょう そのとき 彼女と目が合った瞬間から、僕は彼女に好意を抱いていった 君は・・・友だち ■雨の音 雨音が授業の内容よりも頭に響く季節 彼女は天性の明るさでクラスの人気者になっていた 彼女のまわりにはいつも友人たちの笑顔があふれる それでも隣りの席の僕とは特別な関係 すぐそばにいるのにチャットで近況をやりとりする 放課後の帰り道、駅までの道のりはいつも一緒 彼女が僕を見る瞳が眩しかった 君は・・・友だち ■電車がホームへ入ってくる 気がつくと、いつも君が横にいた 朝、僕が乗る車両に、君は走って乗り込んでくる 「あ・・おはよう・・・」 そう言って僕は、汗をかいた君にタオルハンカチを渡す 君は一瞬躊躇したあと、ハンカチをそっと首筋にあてた 繊維にしみこむ、君の息づかい 見ていないフリをしながら、僕は場面を網膜に焼きつける ありがとう、という君の笑顔が眩しくて見られない 君は知っているのか 僕の視線を なにもなかったように僕にほほえみ返してくるけれど 君は知っているのか 僕のざわめきを 笑顔のまぶしさに僕の心が射抜かれていることを 君は・・・友だち ■セミの声+学校のチャイム 夏休み前の教室 君の周りにはたくさんの友だち 賑やかな歓声がかけめぐる 女子校には、薔薇色の笑顔が咲き乱れているけど 頬を染める薄紅色は芽吹かない 僕は彼女に合わせて明るく笑うけど 心の中の鼠色は誰にも見せられない 「夏休みに入ったら海へ行かない?」 つとめて普通に、声をかける いつものまぶしい笑顔で、うん、行こう、と答えるけど 彼女の瞳に映る僕は、追い詰められたハツカネズミ のように、見えた 夏めく空 教室の窓から見える線路の向こうに白い雲がたちのぼる 君は・・・友だち ■セミの声+波の音 「高山から海までって、意外と近いんだよね」 高山本線の終点、富山駅には北陸新幹線も乗り入れる そこからローカル線で終点の海水浴場まで20分 初めての小旅行 僕と彼女は他人からはどう見えるんだろう 女子高生の友だち同士 そりゃそうだ 僕とは対照的な白い肌 浜辺に寝そべり、仲のいい友だちのように手をつなぐ 顔を覆う帽子を斜めに上げて、僕の方を見たあと屈託なく笑う彼女 僕は溺れていく気持ちを隠して、其の手にそっと口吻(kiss)をした いま僕の笑顔はみにくくないか 彼女の明るさを翳らせていないか 君は・・・友だち ■古い町並み 夏休みもあと少しで終わりという日の午後 僕と彼女は古い町並の雑貨屋さんにいた 「記念にお揃いのキーホルダー 、買わない?」 記念ってなに、とまた大きな声で笑う彼女 それでも彼女は僕を否定しない 彼女が選んだ2つのキーホルダーには わざとらしくなく可愛いキャラクターが笑っていた 僕たちがレジに並んでいるとき、クラスの友だちが彼女を見つける 友だちは僕じゃなくて、彼女に声をかける 彼女も楽しそうに受け答えする 僕に見せる笑顔より何倍も楽しそうに 僕は独りで支払いを済ませ、彼女の分も立て替える 彼女のまわりには同じ部活の友だちが集まってきて まるでオープンの女子会だ 輪の中に入らない僕の方を見た彼女は苦笑いする そうか、やっぱり・・・ 君は・・・友だち ■朝の教室チャイム/夏休み明け いつもの電車に彼女はいなかった 遅れて教室へ入ってきた彼女は、自分の机を見て息を呑む 机に置かれた花瓶 仕掛けたのは僕だった だって、君が悪いんだよ 僕だけを見ててよ 罠は僕の思いをはるかに越えていく 彼女はあっという間に、友だちの仮面を被った獣たちの標的になった 無視という暴力 言葉の暴力 ネットの暴力 薄笑いの獣たちは容赦なく爪を突き立てる 彼女の瞳から光は消え、まぶしい笑顔も消えていった   今こそ、僕の手...
    Voir plus Voir moins
    13 min
  • ボイスドラマ「トラベラーズ」
    Jan 31 2025
    (CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 ■SE〜目覚まし時計のアラーム 「うるさ〜いなぁ・・・」 無意識に目覚ましのアラームを叩いて止める。 そういえば昨日、目覚まし時計買ったんだっけ。 ■SE〜再び目覚まし時計のアラーム 「う〜ん・・・・」 「あ!もうこんな時間!?」 「やっばい!」 ベッドから起きてトースターに食パンを入れ、スイッチを回す。 シャワーを浴びながら、チン、という音が聞こえてくる。 タオルで髪を乾かしながら、グラノーラに牛乳を注ぐ。 たとえ寝坊しても、これが私のモーニングルーティンだ。 私は高山市図書館につとめる司書。 図書館に仕入れる専門書や洋書を選定したり、市民に向けたワークショップを企画する。 今日は私があっためてきた企画、古典SFの名作を分析するワークショップの日。 レイ・ブラッドベリ、フィリップ・K・ディック、H・G・ウェルズ・・・ 作品を思い返すだけでワクワクする。 私は手早く朝食をすませ、身支度を整えて、アパートを出た。 宮川の朝市を通り、宿儺(すくな)かぼちゃを売るおばちゃんに今日も声をかける。 「おはようございます!おいしそう!」 忙しく観光客の相手をするおばちゃんは、視線だけ私に向けて微笑む。 国分寺(こくぶんじ)通りから安川通り(やすがわどおり)へ。 坂をゆっくり上がると、歩道を自転車が降りてくる。 中学生の女の子。顔が真剣。 結構なスピードね。危ないかも。 ごめんなさい! ■SE〜自転車のブレーキ そう言って自転車は私と接触した。 目の前が真っ暗になる・・・ やだ、こういうときホントに星が見えるんだ・・・ [LOOP-2](ループトゥー) ■SE〜目覚まし時計のアラーム 「うるさ〜いなぁ・・・」 ■SE〜再び目覚まし時計のアラーム 「う〜ん・・・・」 「え!?」 あれ? 私、なんで部屋にいるの? 確か自転車とぶつかって・・・ 夢・・・?リアルな夢だわー! あ、いや、こんなことしてる場合じゃない。 トースターで食パンを焼き、シャワーを浴びる。 タオルで髪を乾かしながら、グラノーラに牛乳を注ぐ。 モーニングルーティンは不滅だ。 今日は、古典SF小説の名作を分析するワークショップの日。 華氏451度、アンドロイドは電気羊の夢を見るか?、そしてタイム・マシン・・・ 大好きな作品を準備しておいて遅れるわけにはいかない。 朝食をすませ、急いでアパートを出る。 宮川の朝市で、宿儺かぼちゃを売るおばちゃんに今日も声をかける。 「おはよう!」 安川通りをゆっくりと上がっていくと、歩道を自転車が降りてくる。 ちょっと待って。 このシーン、既視感満載! そうそう、思い出した。あの中学生の女の子だ。顔が真剣。 あぶない! 私は女の子の腕をひっぱって抱き抱える。 自転車はバランスを失って歩道に転がった。 「大丈夫?」「はい」 女の子は丁寧にお礼をのべて倒れた自転車を起こし、足早に去っていった。 ブレーキ、壊れてたんじゃないかしら。 ・・・?あ!いっけない!私、急いでるんだった。 今日のためにSF作家を東京から招いているのに。 もう着いちゃってるかも・・ あわてて信号のない通りを横切ったとき、 反対側から左折してきた軽トラックと接触した。 ■SE〜自動車のブレーキ まただ・・・ 目の前を星が舞う・・・ [LOOP-3](ループスリー) ■SE〜再び目覚まし時計のアラーム 「はっ!?」 夢?いやいや、これは夢じゃない。 頭の中でなにかが私を急かす。 急いで図書館へ行かないと。 SF小説のワークショップの日にタイムループ? まさかね、でもなにか関係ある? 華氏451度・・・本を読むことを禁じられた未来のせい? アンドロイドは電気羊の夢を見るか?・・・私はアンドロイドなの? タイム・マシン・・・?いやいやいや、直球すぎるでしょ。 今度は朝食をとらず、シャワーも浴びずにアパートを出る。 宮川の朝市もひたすら早足で駆け抜ける。 安川通りをのぼりきる直前、女の子が自転車に乗ろうとしていた。 「その自転車、ブレーキ壊れてるから、今日は歩いていきなさい」 女の子は不思議そうな顔をしながらブレーキを調べる。 あ、ホントだ・・・ 小さな驚きの声が後方から聞...
    Voir plus Voir moins
    11 min
  • ボイスドラマ「信太の森」
    Jan 31 2025
    (CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 「本山(ほんざん)へようこそ。ようきんさったの」 温和な表情の住職が、私にお茶をすすめる。 ここは、飛騨高山と木曽福島のちょうど真ん中あたり、 野麦峠の高山側にある苔むした古寺。その名を信太寺(しのだじ)という。 「説話を集めてらっしゃるとか」 「はい、このあたりに伝わる民話を採訪しています」 「まあ、お茶でも飲みながら、くつろいでいきんさい」 私は民俗学者。 晩夏の帰省休暇を利用して長野の善光寺から松本、塩尻と木曽路をくだり、 レンタカーで峠道を抜けてふるさと高山へ向かっている。 ゆうべ木曽福島で一泊し、野麦峠に入ったのはお昼近かった。 「先(せん)の住職から伝え聞いておる話でもええかな」 「はい、お願いします」 「むかぁし、むかし。本山(ほんざん)ができる前の話だそうな」 住職がゆっくり、訥々と語り始める。 飛騨に広瀬(ひろせ)と呼ばれた地域があってな。 緑に囲まれた自然豊かな場所やったから、いろんな生き物たちが暮らしておった。 キツネもタヌキも、クマもリスも・・・ ほんで、村を一望する山の中腹には、村人たちの信仰を集めるお寺があったんやさ。 ある日のこと、寺の住職が小僧さんたちとともに裏手の山へ山菜とりに出かけると 子狐が罠にかかって苦しんどったんやと。 住職は、寺を擁する山で殺生をたくらむとはなにごと! と怒り、子狐を罠から助けて手当をしてやったんだそうな。 小僧さんたちも、住職の命で傷が癒えるまで子狐を手厚く介抱した。 子狐は小僧さんたちになつき、小僧さんたちも子狐を大層かわいがり、 元気になるのを見届けて山へ返してやった。 同じ年の冬、住職は山道で落石に会い、足に大怪我を負ってもうた。 その話をどこで聞きつけたか、太夫(たゆう)と名乗る少年が現れ、 住職を手厚く看護した。 太夫がどこからかとってくる薬草は、傷によく効き、 住職は春を待たずに歩けるようになったんやと。 山につもった雪が溶け始めると、少年は、 下働きでもなんでもするので、寺に置いてほしいと懇願した。 住職はこころよく受け入れ、 太夫は小僧さんたちと寝食をともにするようになった。 実は小僧さんたちには、太夫があのときの子狐だとわかっていた。 布団を並べて寝ているときに、ふかふかの尻尾が布団からはみだしていたんやと。 太夫は、小僧さんたちといっしょにお経を読んだり、座禅をした。 坐禅を組むときは尻尾を出さんように、と住職に言われて太夫は驚いた。 住職も最初から太夫が小狐だと気づいていたんやさ。 それでも太夫はとっても行儀がええので、みんなにかわいがられたそうな。 太夫は、一生懸命修行に励んだ。 毎朝誰より早く起きて本堂を掃除し、夜遅くまでお経を読んで御勤めをした。 しまいにはお経を覚えるのも、坐禅を組むのも、小僧さんの中で一番上手になったんやさ。 やがて、住職は木曽福島のお寺へ新しい住職として呼ばれて行かっしゃった。 お供の小僧さんに指名されたのは太夫。 太夫は大層喜んだが、反面、ほかの小僧さんたちと離れるのは寂しくてたまらず 出発の日まで毎晩みんなで別れを惜しんだんやと。 太夫は木曽福島のお寺で暮らすようになると、一度も狐の姿に戻ることはなかった。 檀家(だんか)のものも誰も太夫の正体を知らなかったんやさ。 一年ほど経ったとき、広瀬のお寺まで手紙を届ける用事ができ、、 その役を太夫がつとめることになった。 太夫はなつかしい広瀬のお寺で大好きな小僧さんたちに会えると、 嬉しゅうて嬉しゅうてどもならなんだんやと。 とはいえ福島から高山の広瀬までは25里(り)以上、 つまり100キロ以上あったからな。お届けものをするというだけでおおごとやさ。 住職は出かける前の太夫に、 「太夫や、お前がどんなに急いでも、ここから広瀬までだと途中一泊せずばなるまいのう。 だが、たとえ一夜の宿でも、決して猟師の家に泊まるではないぞ」 と、きびしい顔をして申しつけた。 太夫は、さっそく身支度を済ませて飛び出していく。 夢中で地蔵峠(じぞうとうげ)を越え、広瀬へいける嬉しさで、 汗...
    Voir plus Voir moins
    16 min