Épisodes

  • ボイスドラマ「天の川の約束」後編
    Feb 3 2025
    登場人物 ・女性(39歳)・・・IT企業でWebデザイナーをしている。彼とはつきあって2年目(CV:桑木栄美里) ・男性(37歳)・・・大手弁護士事務所で働くジュニア弁護士。シニアを目指している(CV:日比野正裕) <女性39歳/男性37歳> (SE〜空港の雑踏) 女性: 「それじゃまた・・・」 男性: 「ああ。また来年」 女性: 今年も私たちの逢瀬は終わった。 一年に一度。 牽牛・織女(けんぎゅう・しょくじょ)の伝説のように、 天の川を超えて彼に会いにいく。 こと座のベガ、わし座のアルタイル。 これに、はくちょう座のデネブを加えた、 ”夏の大三角”が東の空へ昇るころ、私は機上の人となる。 (SE〜飛行機が離陸する音) (SE〜飛行機の機内) 機内アナウンス: 当機は今、中部国際空港への着陸態勢に入っております。 天気は晴れ、時間は9時5分です。 お座席、テーブルは元の位置にお戻しになり、シートベルトをご着用ください。 女性: 次の年も約束の日がめぐってきた。 紙のタンブラーからエスプレッソを飲み干し、 スマホでモバイルチケットを確認する。 今日はいつもの往復搭乗券ではない。 大切な話を彼にするために、片道(ワンウェイ)チケットだ。 (SE〜空港のロビー/スーツケースを引く音) 女性: 早く会いたい。彼の顔が見たい。 ボーディングブリッジを通り、到着ゲートを抜け、 検疫検査、入国審査をすませ、手荷物を受け取って到着ゲートへ。 私は足早に到着ロビーで待つ彼の元へ・・・ え・・・いない・・・? 彼の姿が見当たらない。 いつもミーティングポイントの一番前で私を出迎えてくれるのに。 時間まちがえてる? ううん、仁川(インチョン)でトランジットの際に、LINE入れてるもん。 不安な思いが一気にからだ中をかけめぐる。 まさか事故にでもあったのかしら? だめだめ、不吉なこと考えちゃ。 いいわ、30時間のフライトでくたくたなんだから、 カフェでお茶でも飲んで落ち着きましょう。 (SE〜LINEの着信音) 女性: あ、LINE。彼だわ。 え?プレミアムラウンジにいる・・・? どういうこと? (SE〜プレミアムラウンジ) 男性: 「こっちこっち」 女性: 「どうしたの?ラウンジなんかで」 男性: 「実は見せたいものがあるんだ」 女性: 「なに?」 男性: 「これ・・・」 女性: 「なにこれ?」 男性: 「L.A.の弁護士事務所からのオファーだよ」 女性: 「え・・・どういうこと?」 男性: 「僕もL.Aに行く」 女性: 「え〜!」 男性: 「もう離れていたくないんだ」 女性: 「そんな・・・」 男性: 「一緒にいたいんだ」 女性: 「でも・・・」 男性: 「でも?・・・同じ気持ちだと思ったのに・・・」 女性: 「同じ気持ちだよ」 男性: 「じゃあどうして・・・」 女性: 「だって私、もうL.Aに戻らないつもりで帰ってきたんだもん」 男性: 「え・・・」 女性: 片道(ワンウェイ)チケットの理由は、L.A.の支社を退職してきたから。 年に一度の逢瀬で我慢できるほど、私は若くない。 会社に伝えた退職理由は、ベッドとマットレス。 ”外国人の体型に合わせたマットレスでは、とても熟睡できません。 何年ものストレスで身も心もくたくたです” これがオフィシャルな理由だ。まあ、間違いではないけれど。 でも本当は・・・ただただあなたに会いたい! 男性: 「そうだったんだ・・・」 女性: 「そうよ。だからL.A.からのオファー、ことわって」 男性: 「え〜」 女性: 「まずは、インテリアショップへ行きましょ。 2人でゆったり寝られるサイズで 体を包み込むようなコイルスプリングのマットレス、買わなきゃ」 男性: 「え・・・ってことは・・・」 女性: 「1分でも1秒でも、長く一緒にいたいの」 男性: 「異議なし」 女性: 私たちはコーヒーを何杯もおかわりしながら、これからのことを話し合った。 一番近い未来の予定はもちろん、インテリアショップ。 2人だけの生活の準備、はじめないと。 彼の腕にくっつきながら、私はもうワクワクがとまらない。 幸せはこうやって自分の手でつかんでいく。 それが私の生き方だから。
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    7 min
  • ボイスドラマ「天の川の約束」前編
    Feb 3 2025
    登場人物 ・女性(36歳/29歳)・・・IT企業でWebデザイナーをしている。彼とつきあって7年目(CV:桑木栄美里) ・男性(34歳/27歳)・・・大手弁護士事務所で働くジュニアアソシエイト (CV:山崎るい) <女性36歳/男性34歳> (SE〜街角の雑踏) 男性: 「転勤!?」 女性: 「うん・・・」 男性: 「・・・いつから?」 女性: 「来月・・・」 男性: 「・・・そっかぁ・・・で赴任先は?」 女性: 「L.A.」 男性: 「え・・・」 女性: 「うちの会社、来月L.A.ブランチをオープンするの」 男性: 「・・・そう・・・」 女性: 「私、あなたと出会う前から、海外勤務の希望を出してたんだ」 男性: 「じゃあ、願いが叶ったんだね」 女性: 「うん。でも・・・」 男性: 「よかったじゃないか」 女性: 「え・・・」 男性: 「お祝いしなきゃ。盛大にやらないと」 女性: 「・・・うん・・・」 男性: 彼女から告げられた、突然の海外赴任報告。 実は、僕にはまるで死刑宣告のように感じられた。 <女性29歳/男性27歳> (SE〜インテリアショップ店内) 男性: 彼女と初めて出会ったのは、いまから7年前。 インテリアショップで、僕がオフィスに飾る絵を探していたときだ。 オフィスと言っても、小さな弁護士事務所。 僕は27歳だったけど、弁護士になりたて、1年目のジュニアアソシエイトだった。 立ち止まって眺めていたのは、モンローをコラージュしたキラキラ系の絵画。 怪しく微笑むブルーグレイの瞳に、僕は長いあいだ、魅入られていたんだ。 女性: 「うふふ・・・」 男性: 小さく、控えめな笑い声で、僕は我に帰った。 男性: 「あ・・・」 女性: 「あら、ごめんなさい。笑うつもりはなかったんだけど」 男性: 彼女は、大手IT企業に務めるWebデザイナー。 僕よりふたつ年上の人気クリエイターだった。 女性: 「私もモンローは好きよ。 ノーマ・ジーンの方がもっと好きだけど」 男性: 「あなたもインテリアを探しに?」 女性: 「そう。私をゆっくり眠らせてくれるインテリアをね」 男性: 聞けば、仕事は多忙を極め、睡眠不足の毎日。 安眠できるベッドを探しにインテリアショップへきたのだという。 女性: 「睡眠導入剤に頼るのはいやだから」 男性: 僕も彼女も、もちろん、リアルなモンローはしらないけれど、 セクシーな笑顔にはお互い共感していた。 イヴ・モンタンには程遠かったけど、 1960年の映画「恋をしましょう」のように、僕たちの物語ははじまった。 気がつけば、あっという間に7年という月日が流れていた。 (SE〜街角の雑踏) 女性: 「おまたせ」 男性: 「行きたいところ、ある?」 女性: 「枕とマットレスを見に行きたい」 男性: 別に意識しているわけじゃないんだけど、 僕たちのデートスポットはなぜかいつもインテリアショップ。 今日も、コイルスプリングという素材のマットレスに出会って 彼女のテンションはどんどんあがっていく。 ベッド、枕にシーツ、かけぶとん・・・ 彼女の睡眠環境がみるみる充実していく。 一緒にインテリアを見てまわるうちに、 いつしか、彼女との未来を思い描くようになっていった。 「七年目の浮気」 じゃあないけれど・・・ 七年目のある日、L.A.転勤という判決がいきなりつきつけられてしまったんだ。 (SE〜レストランの雑踏/ワイングラスの乾杯の音) 男女: 「乾杯」「乾杯」 男性: 「ねえ・・・ひとつだけお願いがあるんだ」 女性: 「・・・なあに?・・・引き止めるならいまよ」 男性: 「え?」 女性: 「やだ、真剣な顔。冗談に決まってるじゃない」 男性: 「だよね・・・あの、僕たち・・・」 女性: 「え・・・」 男性: 「僕たち、これから毎年、この日に会わないかい?」 女性: 「この日・・・星祭(たなばた)の日?」 男性: 「そ、牽牛・織女の逢瀬のように」 女性: 「雨が降ったらどうするの?」 男性: 「カササギにお願いすればいい」 女性: 「そのときは私がカササギになってあげる」 男性: 笑顔のなかに変わらぬ思いを確信したいま、 僕はやっと、彼女のL.A.行きを誇らしいと感じた。 僕たちの道はまだ、未来へ続...
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    5 min
  • ボイスドラマ「JUNE BRIDE」後編
    Feb 2 2025
    登場人物 ・妹(8歳/17歳)・・・10歳も年の離れた姉を慕っている(CV:桑木栄美里) ・姉(18歳/27歳)・・・年の離れた妹と仲良し。結婚式直前のある日・・・(CV:桑木栄美里) ・父(44歳/53歳)・・・なにより娘たちを愛する歴史学専攻の大学教授(CV:日比野正裕) <姉27歳/父53歳> (SE〜ウェディングマーチ〜拍手と歓声) 姉: 愛する妹へ。 この特別な日に、私の心は感謝と慈しみの気持ちでいっぱいです。 そう、私たち2人が大好きなミモザの花言葉のように。 あなたは私の人生のなかで誰よりも尊敬し、愛する存在です。 結婚式の日に、私の心を手紙に託して、 あなたに伝えることができたら、こんなに嬉しいことはありません。 届けたい思いはこんなに溢れているのですから。 (BGM〜Love Songs1) 姉: 愛する妹へ。 あなたが私の妹であることに感謝しています。 あなたと共に育った日々は、私の人生にとって宝物です。 私が一人暮らしを始めるとき、あなたが選んでくれたコンパクトな食卓。 (SE〜インテリアショップのガヤ) 父: さすが私の娘(笑)。 お姉ちゃんの部屋にぴったりだ。 姉: そう。小さくておひとり様にピッタリのサイズだったけど、 グラストップのローテーブルは、すごくオシャレでいつも癒されてた。 授業のあとアルバイトでクタクタになって帰った夜、 食卓に座れば、あなたの温もりを感じてた。 (SE〜家庭のガヤ) 父: 私の娘は、センスがいいなあ。 清楚で上品で、でも華やかで(笑) 黄色いミモザには、「真実の愛」という花言葉もあるんだよ。 姉: あなたが父と遊びにきたとき、食卓に生けてくれる一輪挿し。 ミモザの優しい香りを飽きずにいつまでも愛でていたの。 (SE〜家庭のガヤ) 父: ベルガモットの香りは気持ちをやわらげてくれるんだ。 お姉ちゃん、お前を思い出して優しい気分になると思うよ。 姉: サブライズであなたが届けてくれる茶葉は、大好きなフレーバー。 嫌なことがあった日でも、 一口、口に運べばストレスがすうっと消えていった。 思えば、私たちはいつも一緒に笑い、泣き、喧嘩して、助け合ってきたよね。 その絆があったから、どんな試練にも耐える強さを持てたんだろう。 あなたが選んだ食卓は、可愛らしくて素敵で、あなたそのものだった。 (BGM〜Love Songs2) 姉: 愛する妹へ。 あなたが私の妹であることに誇りを感じています。 忘れないで。 あなたの優しさと強さが、いつも私を支えてくれたことを。 私は忘れない。 この日のために、あなたが真剣にインテリアを選んでくれたあの日。 大きな食卓を見て戸惑う私に、あなたがくれた言葉。 ”これからいっぱい家族が増えて、いっぱい幸せに包まれるから” ”大きな幸せを支える食卓は、大きな食卓でなきゃいけないから” 私は忘れない。 ダブルベッドを選びながら、あなたが目を輝かせて私に言った言葉。 ”いまは大きなダブルベッド。でも次は小さなベビーベッドだから” 私は忘れない。 3人がけのソファに腰かけてあなたがつぶやいた言葉。 ”このかたすみに私の場所もあるといいな” この先、人生は長い長い道のりを歩んでいくけれど・・・ あなたのいない人生なんて、私には存在しない。 あなたの選んだ恋する家具たちは、 私の人生を彩り、生きていくことを喜びに変えてくれるだろう。 (BGM〜Love Songs3) 愛する妹へ。 あなたが妹でいてくれたことが、私の人生の宝物です。 あなたを愛する思いは、言葉では表現しきれません。 あなたは私の人生においてかけがえのない存在です。 さあ、このあとは、あなたが輝く番。 コンパクトな食卓が、大きな食卓へ進化していったように、 あなたの人生も、大きく翼を広げて羽ばたいてください。 これからも、私はいつでもあなたのそばにいます。 姉として、私は誰よりもあなたを応援するし、 誰よりも心が通い合える存在であることに変わりはありません。 結婚は新しい旅立ちですが、私たちの絆は永遠です。 席札の下にこっそりしたためたこの手紙、 あなたの心に届き、思いが伝わりますように。 (SE〜...
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    8 min
  • ボイスドラマ「JUNE BRIDE」前編
    Feb 2 2025
    登場人物 ・妹(8歳/17歳)・・・10歳も年の離れた姉を慕っている(CV:桑木栄美里) ・姉(18歳/27歳)・・・年の離れた妹と仲良し。結婚式直前のある日・・(CV:桑木栄美里)・ ・父(44歳/53歳)・・・なにより娘たちを愛する歴史学専攻の大学教授(CV:日比野正裕) <妹17歳/父53歳> (SE〜雨の音/家の中) 妹: 「いやあね、今日も雨・・・」 父: 娘がリビングの窓から空を眺めて、恨めしそうにつぶやく。 妹: 「来週は、晴れるかなあ・・・」 父: 「大丈夫。式の日にはきっと晴れるよ。お父さん、晴れ男だから」 (BGM〜雨イメージ「Rain May Come」) 父: それでもまだ、祈るような表情で空を見つめる娘。 正確に言うと、下の、娘。 彼女には、10歳も年の離れた姉妹(きょうだい)がいる。 来週、ジューンブライドになる姉だ。 2人は、妹がまだ幼い頃から 年の差なんてまるで関係なく心を通じ合わせていた。 <妹8歳/父44歳> 妹: 「お姉ちゃ〜ん、これ、かわいい!」 父: 姉の大学入学が決まり、一人暮らしをはじめるとき 家族で行ったインテリアショップ。 妹は、コンパクトな食卓を目ざとく見つけて 大きな声で姉を呼ぶ。 妹: 「お部屋、ちいさくても、これなら大丈夫」 父: さすが私の娘。 姉がワンルームに住むなんてひとことも言ってないのに。 しかも、彼女が推す食卓は、グラストップのローテーブル。 当時のハイトレンドだった。 姉も満面の笑みで妹の頭を撫でる。 年は離れていても、まるで親友のような姉妹だ。 妹: 「ここにお花を置いて、お姉ちゃんと一緒にお茶を飲むの」 父: 「お姉ちゃんは一人暮らしだからね」 妹: 「だから、寂しくないように私がそばにいてあげる」 父: 「お姉ちゃんちは遠くだから、1人じゃいけないよ」 妹: 「う・・・」 父: つぶらな瞳を潤ませて、口をつぐむ娘を見ていると こっちが切なくなってしまう。 結局、なんだかんだと理由をつけ、 姉の暮らす東京まで何度連れていったことだろう。 その都度、食卓の一輪挿しには姉の大好きなミモザを生け、 とっておきの茶葉で紅茶を淹れて、いつまでも語り合う。 そうそう、ミモザの花言葉は「感謝」「友情」・・・ 互いに「感謝」し、「友情」を深めていく。 そんな2人を見るのが、私の一番幸せな時間だった。 <妹17歳/父53歳> (SE〜インテリアショップのガヤ) 妹: 「お姉ちゃん、今度は大きな食卓にするんでしょ」 父: 結婚式の1週間前。 家族で出かける最後のインテリアショップ。 いや、最後じゃないかな。 3人で出かけるのは、最後かも。 彼女は姉と腕を組み、新居の家具を見て回る。 楽しそうな笑顔の合間に見える切ない表情。 まもなく新郎となるお婿さんは、 ハネムーン休暇のためにハードワークをこなしている。 代わりに、姉と新居のインテリア選びを任されたのが、彼女だった。 妹: 「え・・・この食卓? こんなん全然大きくないよ。 だってこれから家族がいっぱい増えるじゃない」 妹: 「ベッドは、シングルからダブルね。 そこにベビーベッドが増えていくんだから」 妹: 「一人暮らしのときは置けなかったソファも必要だよ。 私が遊びに行っても3人で座れるような、大きなソファ」 父: どうやら私の出る幕はなさそうだ。 (SE〜雨上がりのイメージ/小さくさえずる小鳥の声) 妹: 「あ、雨やんだみたい」 父: 「ほらね、お父さん晴れ男だって言ったろ」 妹: 「なに言ってんの。結婚式、来週だよ・・・」 父: そう言いながら、満面の笑みが彼女を包む。 慌ただしく式の準備に追われる姉をサポートしながら リビングで妹と過ごす和やかなひととき。 1週間前のビフォー・ウェディングは、 凪いだ海のように、ゆったりと流れていった。 (SE〜静かに流れるウェディングマーチ〜宴席のガヤ) 妹: 「お父さん、私たちの席こっちだよ」 父: 席札を確かめながら、腰をおろす。 隣に座る娘は、テーブルを眺めて不思議そうな顔をしている。 妹: 「お父さん、席札の下になにかある・・・」 父: 席札に隠れるように折り畳まれた純白のナプキン。 そこに包...
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    8 min
  • ボイスドラマ「変わらないもの/父のソファ」後編
    Feb 1 2025
    登場人物 ・母(40歳/65歳)・・・主婦/妻とは学生時代、東京で出会い、名古屋で結ばれた(CV:桑木栄美里) ・父(44歳/69歳)・・・全国展開する半導体チップメーカーの社長/かつては町工場の工場長だった(CV:日比野正裕) <母65歳/父69歳> (SE〜キッチンで洗い物をする音) 父: 「もう、こんな時間か・・・あの子、まだ帰らないのか」 母: 「ええ。なんでも最近新しくオープンするセレクトショップで 新ブランドの開発をまかされたそうよ」 父: 「ああ、そういえば、そんなこと言ってたっけな」 母: 「さっきメールで、夕ご飯もいらないって」 父: 「まったく、いくつになっても心配ばっかりかけて」 母: 「しようがないでしょ。あなたの娘(こ)だもの」 (BGM〜absent-300473596) 父: 娘がインテリアコーディネーターになった。 それは、私も妻も家具が大好きだったからかもしれない。 私のお気に入りは、3人がけのこのソファ。 大き過ぎもせず、小さくもなく、ちょうどいいサイズと ふかふかの座り心地が私の居場所になっている。 ソファが我が家にやってきたのは、25年前だった。 <母40歳/父44歳> (SE〜インテリアショップの雑踏) 父: 「眠ったみたいだな」 母: 「あなたが大声ださなきゃ、すぐ寝てくれるわ」 (BGM〜good-night-300537089) 父: 生まれたばかりの娘をベビーカーに乗せて、 家具屋の店内をゆっくりと見てまわる。 お目当ては3人並んで寝られる大きなベッド。 寝室の大きさも考えながら、決めるのに難航していた。 そのとき、私の足がとまったのは・・・ 母: 「ソファ?」 父: 「うん、大き過ぎず、小さくもない。 私が真ん中に座って、両横にこの娘と息子が座ってくれたら最高だろうなあ」 母: 「あら、じゃあ私と学校行ってるお姉ちゃんは?」 父: 「同じ柄のひとりがけのソファが2つ、あればいいじゃないか」 母: 「大家族ね」 父: 「ああ、大家族で毎日が楽しくなるぞ」 母: 「この娘と3人で寝られるベッドも忘れずにね」 (BGM〜love-is-forgetting-300540324) 父: こうして、一目惚れしたソファは、家族の中心となった。 末娘を抱いて真ん中に座る私と、両脇に座る長男長女。 もっちりとした座り心地のソファーは、私たち親子をやさしく包み込んでくれた。 それはまるで家族の思いを抱きしめるように。 私たちの姿を見て妻がニッコリ笑う。 ソファーを中心にして、リビングに笑顔の灯りが灯された。 <妻65歳/父69歳> (SE〜玄関をあける音) 母: 「帰ってきたみたいよ」 父: 「まったく」 母: 「優しくしてあげてね」 父: 「わかってる」 母: 「座ったら?」 父: え? あ、そうか・・・ 私は知らず知らず、リビングで立ったままソワソワしていたようだ。 私はようやくソファに腰をおろし、おもむろにテレビをつける。 テレビも、つけていなかったのだな・・・ ふふ・・・。 自分でも気が付かないくらい、娘が心配だったらしい。 (SE〜リビングのドアをあける音「カチャ」) 父: 「おかえり」 娘は必ずリビングに顔を出してから自分の部屋へ行く。 いつも通り・・・に見えるけど、ちょっと、疲れた顔・・・だな。 仕方ない。いろいろストレスもあるだろうから。 私は、トーンを落として声をかける。 「とりあえずソファで休みなさい」 私の声を聴いた娘は、とたんに表情が緩んだ。 笑うとエクボが現れるのは、いまも昔も変わらない。 キッチンから妻が割り込んでくる。 母: 「ホント、変わらないわね」 父: 「なんだい」 母: 「ソファの真ん中と右端を親娘で占領すること」 父: 「いいじゃないか。親娘なんだから」 (BGM〜new-horizon-light-346391042) 父: 娘が生まれたのは、私がまだ町工場を経営していた、44歳のとき。 仕事もちょうど転換期で慌ただしい日々だったが、 夕食後は時間を作り、このソファに座って娘といろんな話をしてきた。 挨拶の仕方、テーブルマナー、言葉遣い、礼儀、作法。 幼いころは泣いたり反抗したりもされたが、 インテリアコーディネーターになった今は、きっと理解してくれているだろう。 ふと気がつけば、上品な笑顔で私...
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    7 min
  • ボイスドラマ「変わらないもの/父のソファ」前編
    Feb 1 2025
    登場人物 ・娘(8歳/25歳)・・・インテリアコーディネーター/セレクトショップで新ブランド立上げの責任者に抜擢されている(CV:桑木栄美里) ・父(52歳/69歳)・・・全国展開する半導体チップメーカーの社長/かつては町工場の工場長だった/少し強面だが心根は優しくて娘思い(CV:日比野正裕) <娘8歳/父52歳> 父: 「よいしょっと」 (SE〜ソファに座る音/キッチンで洗い物をする音=オフで) 娘: 夕食のあと、キッチンで洗い物をする母に背を向け、 リビングのソファにどっしりと座る父。 父: 「ニュースはまだかな・・・」 (SE〜テレビのリモコンを操作する音) (BGM〜fsharp-maj-arpeggio-300270424) 娘: 3人がけのソファは、身長180cmの父が座るととても小さく見える。 小柄な私が一人で座ると、背もたれが視界を遮り巨大な壁となる。 ”なんて大きいソファなんだろう”っていつも感じていたのに。 いつものことだけど、いつも不思議だった。 父: 「お、今日はクイズか!」 娘: 父はTVを見るのが大好き。 仕事から帰ってきてみんなでご飯を食べた後には、 いつものソファで夜遅くまでTVを見る。 ニュース番組、バラエティ番組、スポーツ番組、何でも見て、 何にでも大きな声で答えていた。 父: 「鹿児島県で2番目に大きい島・・・2番目に大きい島は・・・ 屋久島!」 (SE〜テレビの中の音「ピンポンピンポン!」) 娘: 私の方を振り返って口元が綻ぶ。 そして、いつものように、 父: 「こっちにおいで。一緒に見よう」 娘: 私は満面の笑みで父の隣へ飛び込み、並んでテレビを見る。 それは私にとって、至福のひととき。 リビングに響き渡る父の声は、家族を照らす灯りだった。 父: 「明日、みんなでまた家具屋さんに行こうか」 娘: そう言ったあと、気がつくと横から父の寝息が聞こえてくる。 振り向けば、キッチンの母は人差し指を口にあてて笑っている。 この時間が私は一番好きだった。 (SE〜インテリアショップの雑踏) (BGM〜liberosis-347011530) 娘: 私がインテリアコーディネーターになったのは、 父も母もインテリアが大好きだったから。 父は時間があると私を家具屋さんへ連れていった。 娘: 「わあ」 父: 「いろんな家具があって楽しいだろう」 娘: 「うん」 父: 「じゃあ座って目を瞑って。 その家具たちに囲まれた暮らしを想像してごらん」 娘: 「う〜んと・・・」 父: 「そばにパパやママやお姉ちゃん、お兄ちゃんは見える?」 娘: 「うん、見える」 父: 「みんな、笑ってるかい?」 娘: 「笑ってる」 父: 「じゃあ、その家具はいい家具だ」 娘: 「そっかぁ」 父: 「やっぱりおまえは見る目があるなあ(笑)」 娘: その思いは(インテリアコーディネーターになった)今でも変わらない。 自然と笑顔が集まってくる家具たちを、私は提案し続ける。 かつて父は町工場を経営し、妻と子供3人を守るために毎日必死に働いた。 毎日疲れていただろうに、週末は必ず私たちをドライブに連れていく。 勉強しろと言われたことは一度もない。 唯一厳しかったのは「礼儀」と「言葉」。 それもこれも、社会人になったいま、私をかたちづくる素養となっている。 <娘25歳/父69歳> (SE〜玄関をあける音) 娘: 「ただいま」 父: 「おかえり。遅かったな」 娘: 「いま、セレクトショップの新ブランド立上げで忙しいのよ」 父: 「ごはんは?」 娘: 「食べてきた」 父: 「そうか、じゃあとりあえずソファで休みなさい」 娘: 「うふふ・・」 父: 「なんだ?」 娘: 「変わらないなあ、と思って」 父: 「なにが?」 娘: 「ソファも。パパも」 父: 「なぁに言ってるんだ」 (BGM〜インテリアドリーム) 娘: つい最近、ソファの皮を新しく張り替えた。 新しい皮の匂いがするソファの真ん中に、今日も父はどっしりと座る。 その横で、私が父にもたれ気味に座る。 社会に出て目まぐるしく変わる毎日のなかで 変わらない日々の幸せが、そこにはある。
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    7 min
  • ボイスドラマ「木の温もりと飛騨の匠」後編
    Jan 31 2025
    登場人物 ・娘(24歳)・・・声優を目指す女性/実家から離れて東京で一人暮らしをしている(CV:桑木栄美里) ・父(56歳)・・・家具職人/若い頃から飛騨の匠の元で修行して家具職人となった(CV:日比野正裕) (SE〜拍手と歓声〜そこにまざってドラムロールの音〜F.O.) 娘: ステージに立つ7名のファイナリストたち。 その中に立つ私は、ゆっくりと目を閉じる。 やがて歓声とドラムロールの音が、私の耳からすうっと消えていった。 私の頭の中に蘇ってきたのは、幼い日の父の背中。 ★娘7歳/父39歳 父: 「いいかい、大きくなっても、温もりを忘れちゃいけないよ」 (BGM〜inspiring-piano-300473695) 娘: 父は家具職人。 幼い私をよく自分の工房へ連れていってくれた。 木目もあざやかに、磨かれた木材が所狭しと並ぶ小さな工房。 父は、工具や木工機械で私が怪我をしないよう、 背中越しに見ているよう言い含めて、いつも私を気遣った。 ある日、1枚の白木を手にとった父は私を手招きして、 (SE〜工房の雑踏) 父: 「ほら、この木をさわってごらん」 娘: それは、家具に生まれ変わる前の白木(しらき)。 無垢の清らかな香りが漂ってくる。 父: 「あったかいだろう」 娘: そこには、スチールやプラスチックをさわったときとは全然違う やわらかくてあったかい感触があった。 父: 「木の温もり、っていうんだよ」 娘: 「木の温もり・・・」 父: 「木は私たち人間と同じで、呼吸しているんだ。 だから木には体温がある。 この木で作る家具にも、そのまま温もりが残るんだよ」 (BGM〜seventeen-street-346951958) 娘: 確かに父が作る木の家具には、冷たい感触はまったくなかった。 学校で辛いことがあっても、家に帰って木の家具に囲まれていると 冷えた心がほんわり暖かく溶けていくような・・・。 父: 「この椅子を見てごらん」 娘: それは背もたれの曲線が美しい木製のアームチェア。 左右の肘掛けにシンメトリーに浮かび上がる木目を見ていて思わず、 「きれい・・・」 とつぶやいた。 父は顔をほころばせて、 父: 「そうだろう。 これは”匠”が作った椅子だから」 娘: 「たくみ?」 父: 「ああ、たくみさ。 むかーしむかしに飛騨から都へ送られてお寺とかお城を作った職人だよ」 娘: 「へえ〜」 父: 「座ってごらん」 娘: 「はい」 座った瞬間、木の温もりに包まれる感じがして、 心がふわっと軽くなっていった。 父: 「気持ちいいだろう?」 娘: 「うん・・・」 父: 「匠が作る家具はね、毎日のストレスを和らげて、 安らぎと温もりを与えてくれるんだよ」 娘: 「ふうん」 父: 「だから、おまえ自身も、いつだって温もりをなくしちゃいけないよ」 娘: 「わかった」 私の方へ振り返ったまま、満足気に微笑む父の笑顔と背中のあたたかさ。 今でも鮮明に覚えている。 東京で一人暮らしを始めるときに選んだのも、すべて木の家具たち。 あ、そうだった。気づかないうちに、私、温もりに包まれていたんだ。 ★娘24歳/父56歳 (SE〜会場の大きな雑踏〜そこにまざってドラムロールの音〜F.I.) 娘: 父と家具たちを思い出しながら 自分でも不思議なほど落ち着いて、私はゆっくり目をあけた。 ドラムロールが途切れた次の瞬間、 私の名前を呼ぶ大きな声が、耳に飛び込んでくる。 嬉し泣きの声は、歓声と拍手があっという間にかき消していった。 (BGM〜インテリアドリーム) (SE〜拍手と歓声、それにまじってオフで父の「おめでとう」の声) 娘: 壇上でトロフィーを手にした私が顔をあげると・・・ 客席の一番後ろには父の姿があった。 笑っているような、でも泣いているようにも見える表情で 大きく手を叩く父。 昨日名古屋へ帰るって言ってたのに・・・ おとうさん、私、おとうさんのような匠になりたい。 一切妥協せず自分の技能を信じて誇りに思う、職人のような声優。 大丈夫。私、できるよね。 匠に、なる。 だって、私はおとうさんの子どもだから。
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    7 min
  • ボイスドラマ「木の温もりと飛騨の匠」前編
    Jan 31 2025
    登場人物 ・娘(24歳)・・・声優を目指す女性/実家から離れて東京で一人暮らしをしている(CV:桑木栄美里) ・父(56歳)・・・家具職人/若い頃から飛騨の匠の元で修行して家具職人となった(CV:日比野正裕) 【Story〜「木の温もりと飛騨の匠/飛騨の家具/前編」】 (SE〜コンビニの雑踏) 娘: 「おつかれさまでしたぁ!」 (SE〜スニーカーで走る足音) 父: 娘がバイト先のコンビニを出たのは、午後7時10分。 慌てて走り出そうとする娘を私が制する。 娘: 「あれ?お父さん!?なんで!?」 (BGM〜the-springs-peaceful-347491831) 父: 疑問符を連発する娘に静かに声をかける。 父: 「明日、大事な声優オーディションなんだろ?」 娘: 「うん・・・え、それでわざわざ東京まで来てくれたの!?」 父: 「いや、たまたま東京のお客さんと打合せだったんだよ」 娘: 「あ、そう・・・」 父: 「えっと、あ〜実は、ちょっと、軽く弁当作って持ってきたんだ」 娘: 「え、うそ?」 父: 「父さんの手作りだから美味くはないけど。 よかったらで一緒に・・・」 娘: 「私、今日は早く帰って発声練習とルーティンの課題をこなしておかないと」 父: 「そうか、そうだったな、じゃあ、もう帰るから。父さんも明日仕事早いからな」 娘: 「そんな・・・」 父: 「なあ、あんまり生き急ぐんじゃないぞ。 たまには歩みを止めて、深呼吸しなさい」 娘: 「わかってる・・・」 父: 「明日がんばってな」 娘: 「うん・・・」 (SE〜街角の雑踏) 父: 娘は私の顔をチラリと見てからアパートへ向かった。 私は反対方向へ歩き出す。 さて、このあとはどこか適当な居酒屋で夕食を摂るか・・・ 娘が名古屋を出て東京で一人暮らしを始めたのは6年前。 あのときの娘と私は、一緒に家具屋へ行くほど距離が近かった。 ★娘18歳/父50歳 (SE〜インテリアショップの雑踏) 娘: 「お父さん、口だししちゃいやだよ。私が選ぶんだから」 父: 「わかってる」 (BGM〜inspiring-whisper-347314386) 父: 私の仕事は、家具職人。 だから家の中は、私の手による、まさに一点ものの家具に囲まれていた。 食卓も、箪笥も、学習机も、ベッドも、すべて木の家具だった。 娘からはよく、どうして木の家具しかないの、って訊かれたっけ。 それは、匠の心と木の温もり。 むかし、飛騨の匠たちが都へ呼ばれて、宮殿や寺院を建立したときも きっと木の温もりを感じながらノミをふるっていたに違いない。 娘は自分の部屋にどんな家具を選ぶのだろう。 インテリアショップで楽しそうに見てまわる、娘の笑顔。 いつまでもこの笑顔を忘れずにいてほしい。 (SE〜インテリアショップの雑踏) 娘: 「選び終わった」 父: 「早いなあ」 娘: 「だって、小さな部屋だもん。そんなに家具必要ない」 父: 「どれどれ・・・」 (BGM〜sunrise-300537095) 父: 娘の選んだ家具を見て、思わず息を呑んだ。 いや、まあ、当たり前と言えば当たり前か・・・。 食卓、ソファ、ベッド、デスク。そのすべてが木の家具。 手触りも滑らかで柔らかく、デザインは真っ白だ。 まるで声優になりたい、という夢への挑戦を表現するかのように。 娘: 「どうかな・・・」 父: 「い、いいんじゃないか。全部木の家具・・・なんだな」 娘: 「うちの家具だって、みんな木じゃない」 父: 「ああ」 娘: 「お父さん、いつも木には”温もり”があるって言ってたでしょ」 父: 「うん」 娘: 「だから、新しい生活をはじめるときも 寂しくないように、温かくて優しい木の家具にするんだ」 父: こうして、木の温もりに包まれた娘の新生活がスタートした。 あれからもう、6年になるのだな・・・ 娘はコンビニでアルバイトしながら、声優を目指して日夜頑張っている。 ★娘24歳/父56歳 (SE〜街角の雑踏〜走ってくる靴音) 娘: 「おとうさん」 父: 「あ、どうしたんだ?バイト先にわすれものか?」 娘: 「ううん。 やっぱり・・・一緒にごはん食べない?」 父: 「ん?」 娘: 「久しぶりにおとうさんのまずい料理食べたくなって(笑)」 父: 「そうか・・・(笑)」 (BGM〜...
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