• ボイスドラマ「サンタの正体」後編(賢者の贈り物)
    Feb 8 2025
    登場人物・彼女(25歳)・・・インテリアコーディネーター/大学卒業後インテリアで課題を解決する仕事に憧れて現職に就く(CV:桑木栄美里)・彼(37歳)・・・公認会計士/30代になって国家試験に合格。リモート打合せが増えてきたためコーディネーターに部屋のインテリアを相談中(CV:日比野正裕)<シーン1:現在/インテリアショップ>(SE〜インテリアショップの店内)彼女: 「遅くなってごめんなさい!」彼: インテリアショップの入口。 階段横にディスプレイされた華やかな絵画を見ていた僕の元へ 息をきらして彼女が走り込んできた。 彼女は、インテリアコーディネーター。 先月リノベーションした僕のアパートのインテリアを考えてくれている。 今日はインテリアショップの店内で、プランを聞かせてくれるそうだ。彼女: 「ずいぶん待たせちゃいましたよね」彼: 「いえ、僕もいま来たところです」 と、答えたけど、それはうそだ。 20分前にインテリアショップに着いた僕は、 ずうっと階段横のところにあるキラキラした絵画を見ていたんだ。 だから、待たされた、という感覚はない。 不快な気持ちがないのだから、 いま来た、と言っても気分的に差し支えないんじゃないかな。彼女: 「こういうキラキラ系の絵が好きなんですか?」彼: 「はあ、あまり派手すぎるのは苦手なんですが、 なんか、このモンローに魅入られちゃいまして・・・」彼女: 「今回のプランに入れましょうか」彼: 「いや、それは、どちらでも・・・不自然じゃなければ」彼女: 「うふふ、検討してみますね」彼: どうも僕の性格的に、イニシアティブをとっているのは彼女のようだ。 ま、クライアントとインテリアコーディネーターという関係なのだから 問題ないのだが。 僕は30代になってから国家試験に合格した遅咲きの公認会計士。 お客さんは若い経営者が多いからだろう。 僕は毎日のように対面でなくリモートミーティングに追われている。 そんなとき、このインテリアショップで彼女と出会った。 街では、街路樹が色づき始める頃だった。<シーン2:3か月前/インテリアショップ>彼女: 「ええ、それはスペース的には難しいかもですね。 あ、でも、家具の色をオン・オフで分ける、という方法もありますから。 一度プラン出してみますね」彼: 聞くとはなしに聞こえてきてしまった電話のやりとり。 ホームオフィスのコーナーで イヤホンを耳につけた彼女が忙しそうに会話していた。彼女: 「わかりました。 では、来週。リモートで打合せしましょう」彼: 電話をきって顔をあげた彼女と思わず目が合ってしまった。 あわてて目を伏せる彼女に、僕は大胆にも声をかける。 いつもの僕なら絶対にありえない行動パターンだけど。彼: 「あの・・・インテリア関係の方ですか?」彼女: 「え・・・」彼: 驚いて顔をあげた彼女はとまどいながら答える。彼女: 「ええ。でも、このお店のスタッフではありません」彼: 「あ、はい。わかります。 実は・・・僕、最近、リモートミーティングが増えてきちゃって ホームオフィスのコーナーを見てたんですけど・・・」彼女: 「ああ、じゃあ店員さんに聞いたら・・・」彼: 「はい。でも、その前にあなたの話が聞こえちゃったので・・・」彼女: 「まあ」彼: 「あ、いえ、決して、盗み聞きしてたんじゃあないんです。 今さら、と言われそうですけど、 僕のアパートには、ホームワークの環境が全然整っていなくて。 だからせめて画面に映る背景くらいは、ちゃんとしておきたい。 でも、自分ではどうしたらいいかわからない。 途方にくれていたときに。あなたの声が耳に飛び込んできたんです。 あ、なんか、まくしたてちゃってごめんなさい!」 気がつくと、彼女は笑っていた。 気がつくといなくなっていた、という顛末を想像していた僕にとっては 予想外の嬉しいリアクションだ。彼女: 「よかったら、詳しくお話を聞かせていただけます?」彼: 「ホントですか」 こうして僕たちは、クライアントとして、インテリアコーディネーターとして このあとも顔を合わせることになった。<...
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    13 mins
  • ボイスドラマ「サンタの正体」前編
    Feb 8 2025
    クリスマスの思い出は、大人になっても心の中に残り続ける特別なものです。今回の物語は、少女時代の主人公が思い出す“あの年のクリスマス”を描いています。家族で飾るイルミネーション、待ち遠しいプレゼント、そしてサンタさんへの願い──。あの夜、サンタの正体を知ってしまった彼女が手にしたものとは?この物語は服部家具センター「インテリアドリーム」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなどの各種Podcastプラットフォームでボイスドラマ としても楽しめます。ぜひ、音声とともにこの温かな物語に浸ってください。さあ、クリスマスの魔法が始まります──。登場人物(※設定は毎回変わります)・娘(5歳)・・・毎年家族で祝うクリスマスを2歳上の兄と共に心待ちにしている。設定は25歳になった女性が少女の頃を思い出すといった内容(CV:桑木栄美里)・父(37歳)・・・クリスマスを楽しみにしている子供たちのために毎年いろいろな趣向を凝らす。イルミネーションで飾られた家は近所でも有名だった(CV:日比野正裕)【Story〜「サンタの正体〜クリスマス雑貨/前編」】<2003年12月24日>全員: さん、にい、いち、点灯!(SE〜家族の歓声と拍手)娘: 「わぁ〜! きれい・・・」父: 「さあ、これでクリスマスの準備はパーフェクトだ!」娘: 今から21年前。リビングの小さなツリーに灯りがともった。 毎年この季節を心待ちにしていた少女が目を輝かせる。父: 「今年もサンタさん、来てくれるといいね」娘: 「うん。でも大丈夫かなあ。 ちゃんとうちのこと覚えてくれているかなあ」父: 「心配いらないよ。きっと来てくれるから」娘: 「だけどだけど、夏におうちの屋根修理しちゃったでしょ。 サンタさん、迷っちゃうかもしれない」父: 「だから、お庭と玄関にイルミネーションをともすんだよ」娘: 「じゃあ今年は早めにイルミネーションともして」父: 「わかってる。今から準備するところ」娘: 実は、我が家のイルミネーションは近所でも有名だった。 玄関周りをライトアップするだけでなく、 庭の大きなモミの木や、桜や梅、紫陽花やツツジまで 鮮やかな光に包まれる。 それだけじゃない。 まるで絵を描くように、高い外壁には雪の結晶やスノーマンたちが光り輝き、 父の手作りの仕掛けの中で、トナカイが走っていた。 絡まるツタも星座のように瞬き、父のこだわりで私の魚座が 真ん中で煌めいている。 屋根の下からはつららのような光の粒が降ってきた。 毎年クリスマスシーズンになると、華かやな光に誘われて 見知らぬカップルたちが我が家のイルミネーションの下(もと)に集まってくる。 父も母も、庭に入ってくる男女をとがめることなく、微笑ましく眺めていた。 思えば、いい時代だったんだなあ。父: 「お手伝い、してくれるかい」娘: 「うん!」父: 「えらいぞ。きっとサンタさんも褒めてくれるよ」娘: 喜んで掃き出し窓から庭へ出ようとする私に父が声をかける。父: 「ちょっと待って」娘: 「なぁに?」父: 「お庭のイルミネーションの前にリビングの飾りつけも仕上げないと」娘: 「リビング?」父: 「ああ。さてと・・・ これはなぁんだ?」娘: 「あ!スノーマン!」父: 「そう、スノーマンの形をした灯りだよ これをまず、ツリーの横のキャビネットに飾ってくれる?」娘: 「はぁい」父: 「飾ったら灯りをともして」(SE〜スイッチを入れる音)娘: 「わあ」父: 「優しい灯りできれいだろう」娘: 私の背より少しだけ低い木製のキャビネットの上で、スノーマンの灯りは 部屋を優しく照らした。父: 「次はこれ」娘: 「キャンドルだ」父: 「クリスマスだからね。真っ赤なキャンドルでお祝いしよう」娘: 「やった!」父: 「キャンドルはあと4本あるからね」娘: 「パパ、ママ、お姉ちゃん、お兄ちゃんと私の4人だから?」父: 「そうだね。いいかい、クリスマスまであと4週間あるだろう」娘: 「うん」父: 「これから毎週日曜に1本ずつキャンドルをともすんだよ」娘: 「うん」父: 「1本1本灯すたびに、ワクワクが大きくなっていく」娘: 「うん」父: 「...
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    13 mins
  • ボイスドラマ「大学祭のピルエット」後編
    Feb 7 2025
    前編では、息子の視点から「母の過去」が描かれましたが、今度は 若き日の父と母 の青春の物語です。夢を追いかけ、大学祭のステージに立つ彼女。その姿を見守る彼——そして二人の未来へとつながる「家具選び」のエピソード。 あの日、何を思い、何を選び、そしてどんな未来へ進もうとしたのか。「新生活応援」というテーマのもと、それぞれの人生の選択をじっくりと見つめていただけたら嬉しいです。 登場人物(※設定は毎回変わります) ・母/妻(21歳/28歳)・・・大学生時代は演劇部とダンス部をかけもち/現在はミュージカル劇団に所属して舞台に立っている(CV:桑木栄美里) ・父/夫(22歳/29歳)・・・妻とは高校〜大学の同級生で演劇の世界に憧れるも挫折して会社員に/現在は証券会社の営業(CV:日比野正裕) (※脚注) ・ピルエット・・・バレエ用語。 体を片脚で支え,それを軸に,そのままの位置でこまのように体を回転させること ・マチソワ・・・フランス語。昼公演が「マチネ」(matinee)、夜公演が 「ソワレ」(soiree)。1日2回公演ある日にどちらも観劇することを「マチソワ」という <妻21歳/夫22歳> (SE〜大学祭の雑踏+キャンパスの中におこる歓声と口笛) 彼: オープンカフェの前で、赤いドレスの彼女がピルエット(※)を舞う。 手作りの看板。手書きのメニュー。 大学祭の模擬店は、彼女のおかげで大賑わいだ。 彼女: 「いらっしゃいませ! ご注文は・・・? え?ここに書いてあること? もちろん、本当ですよ」 彼: メニューの横に赤い文字で書かれていたのは、 『スペシャルパフェ』ご注文の方へ。 もれなく、キュートなダンサーがバレエを踊ります』 さっきから、彼女のダンスがひっきりなしにオーダーされる。 彼女: 「ありがとうございました!」 彼: 「大丈夫?疲れてない?もう10回以上続けて回ってるじゃん」 彼女: 「ぜ〜んぜん大丈夫!あ〜楽しい〜!」 彼: 大丈夫なわけないと思うんだけどなあ。 (※)マチソワでミュージカルの舞台をこなしながら、 幕間で模擬店に立っているんだから。 僕なんて、午後1回の朗読劇だけで、ヘトヘトになっているっていうのに。 カメラを向けるお客さんの前でハイテンションのまま、 今度はパンシェ(※)を決める。思わず見惚(みと)れてしまう。 (SE〜カメラのシャッター音) 彼女: 「ねえ、模擬店ハケたら、家具屋さん行くこと覚えてる?」 彼: 「ああ、もちろんさ」 彼女: 「そっちも楽しみだなあ」 彼: 大学を卒業したら1人暮らしをする彼女のために、 今日夕方から家具屋さんに付き合うことになっている。 実は、昨日時間があいたから、1人で見に行ってきたんだ。 新生活応援フェア? とかいう、ちょうどぴったりなキャンペーンやってて、 イケてる家具がいっぱい並んでた。 彼女に絶対似合いそうな白いベッドにソファ、食卓、スタンドミラー・・・ いつかそこに僕も・・・ いやいやいや、そうじゃなくて。 同じ志を持つ2人が、一緒に頑張っていければいいな・・・ っておんなじことか。 そんなこんなで、いろんなことを考えながら、店内を何周もしちゃったよ。 彼女: 「ねえ、ごめんなさい。 ピルエットの注文いっぱい入っちゃった。 模擬店少し時間延長するって」 彼: 「いいよいいよ、家具屋さんだって早仕舞いはしないから」 彼女: 「ありがとう」 彼: 結局、家具屋さんに着いたのは、もうほとんど閉店間際だった。 それでも、笑顔で迎えてくれるお店の人に感謝して、 僕たちは家具の森を散策していった。 <妻28歳/夫29歳> (SE〜街角の雑踏) 彼女: 「私、次の公演で舞台を降りるわ」 彼: 「え?」 観劇の帰り道。彼女が笑顔で僕に言った。 lおかげで今日話そうと思っていたことがすっかりどこかへいってしまった。 彼女: 「大学卒業して、もう7年か・・・。 結構がんばってきたなあ」 彼: 「どういうことだよ?」 彼女: 「このままミュージカルを続けていっても プロとして大成できるとは思えないもの」 彼: 「そんなことないよ。君ならなれるさ。 あきらめるのは僕...
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    9 mins
  • ボイスドラマ「大学祭のピルエット」前編
    Feb 7 2025
    「大学祭のピルエット」は親子の何気ない会話から、時を遡りながら描かれる“人生のワルツ”です。自分の知らなかった母の過去、そして一つの写真をきっかけに明かされる思い出——。新生活を迎えるとき、誰もが思い出の中にある「大切なもの」を振り返ることがあるのではないでしょうか? この作品は 服部家具センター「インテリアドリーム」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、AppleなどのPodcastプラットフォームで配信 されています 登場人物 ・母/妻(51歳/21歳)・・・大学生時代は演劇部とダンス部をかけもち/現在は社会福祉法人で介護士をしながら、市民ミュージカル劇団で教えているが息子は知らない(CV:桑木栄美里) ・息子(21歳)・・・大学4年生でYouTuber。特技を生かして映像作家になるのが夢(CV:日比野正裕) <息子21歳/母51歳> (SE〜家庭の環境音/料理の音など) 息子: 「ねえ、ママ。このひとだれ?」 (BGM〜) 母: 息子がキッチンへ持ってきたのは1枚の写真。 それは、スポットライトを浴びてパンシェ(※)を決める、 赤いドレスのバレリーナ。 ・・・30年前の私だ。 やあねえ、どこから掘り出してきたのかしら。 息子: 「ママ?」 母: 「さあ、だれかしら?」 息子: 「この写真、パパのカバンから落ちてたんだけど、きれいな人だよね」 母: 「そう?」 息子: 「え・・・ひょっとして・・・これ、ママ・・・なの?」 母: 「どうかな」 息子: 「すご!ママ、カッケー!」 母: 「そういう口の聞き方やめなさい」 息子: 「ダンスとかやってたんだ?」 母: 「クラシックダンス。バレエよ」 息子: 「ぜんぜん知らなかった!」 母: そういえば、言ってなかったわね。 私、幼い頃からクラシックバレエをやってて、いつも踊ってた。 息子: 「これはいつの写真?何歳?」 母: これは・・・ そう、大学最後の年だ。 21歳だからちょうど今のこの子と同い年ね。 大学祭のときのステージだったと思うけど。 ステージで踊り、その衣装のままカフェで給仕もしたんだわ。 同級生のパパとは演劇部で一緒だったんだけど、 私はミュージカル志望だったから、ダンス部とかけもち。 いつか2人でミュージカルの大舞台に立とう、なんて 大それたことも話し合ってたっけ、うふふ。 息子: 「なにエモい顔してんの?」 母: 「おっと、ごめんごめん。 ちょ〜っと思い出しちゃってね」 息子: 「パパとのこと?」 母: 「うん。スマホだけど別の写真も見る?」 息子: 「見たい!」 母: 「はい、どうぞ」 息子: 「え〜なにこれ?家具がいっぱいじゃん」 母: 「大学祭の写真はその1枚しか私持ってないけど、 そのあと2人で家具を見にいったのよ」 息子: 「卒業後に同棲したってこと!?」 母: 「同棲じゃなくて、私の新生活。 ママの引越しが決まってたから、一気に家具を揃えたの」 息子: 「リッチ〜」 母: 「違うわよ。家具屋さんでセールをやってたの。 それで、ソファからダイニング、ベッドにカーテンまでまとめて買っちゃった。 選んでくれたのはパパだけどね」 息子: 「じゃあ、そのときからパパとは付き合ってたんだ?」 母: 「どうかなあ・・・そんな感じじゃなかったけど」 息子: 「でもパパはママのこと好きだったから、今でもこの写真持ってるんでしょ」 母: 「さあ、どうだか」 息子: 「ママってクールだなあ」 母: 「っていうより、昔からパパの方がホットでちょっぴり強引だったのよ。 私、なかなか決められない質でしょ。 オマエには絶対白が似合う!って、すべて純白の家具をパパが選んだの」 息子: 「パパらしいや」 母: 「私も、白い家具が好きだったからいいんだけどね・・・ 白い木製の家具、ホントに素敵だったなあ・・・ 新婚じゃなくたって、真っ白なインテリアに囲まれた暮らし、憧れてたもの」 息子: 「なにノロケてんの」 母: 「あら失礼」 息子: 「でもいまはうちの家具、割と濃い色の木目じゃん」 母: 「それは、パパが・・・」 息子: 「やっぱパパの趣味かあ」 母: 「いいえ、あなたのために選んだのよ」 息子: 「え?」 (BGM〜...
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    7 mins
  • ボイスドラマ「父の運動会〜食卓のバトンリレー」後編
    Feb 6 2025
    前編では、8歳と16歳の娘と父の思い出 を中心に、「運動会のバトン」と「食卓のバトンリレー」を通じて、家族の絆を描きました。後編では、娘がさらに成長し、父との関係が変化していく様子 をお届けします。人生の中で家族の役割は少しずつ移り変わっていきますが、それでも変わらない「温もり」とは何か? そんな想いを込めました。 また、この物語は ボイスドラマ としてもお楽しみいただけます!Spotify、Amazon Music、Apple Podcast をはじめとする各種Podcastプラットフォーム、そして 服部家具センター「インテリアドリーム」公式サイト で配信中です。音声ならではの臨場感や、キャラクターの息づかいがより深く伝わる作品になっていますので、ぜひ聴いてみてください。 それでは、後編の物語へどうぞ。  【登場人物】 ・娘(16歳/24歳)・・・高校=陸上部のアンカー/現在=スポーツインストラクター(CV:桑木栄美里) ・父(59歳/67歳)・・・自ら経営する会社を引退後地元に請われて市会議員に(CV:日比野正裕) <娘16歳/父59歳> (SE〜玄関が開く音/引き戸) 娘: 「ただいまぁ」 父: 「おかえり!」 (BGM〜) 娘が疲れた顔で帰ってくる。 今日も陸上部でトラックを何周も走ってきたのだろう。 娘: 「おなかすいたぁ。晩ご飯なあに?」 父: 「お前の大好きな鶏飯だよ」 娘: 「やったぁ」 父: 「さ、汗かいただろうから、先にシャワー浴びてきなさい」 娘: 「うん!秒で入ってくるからすぐ準備して!」 父: 「急がなくていいからゆっくり温まってきなさい」 まったく、また訳のわからない若者言葉を使って・・・。 ああ、それに答えてる私も私か、ははは。 娘は高校1年生。 陸上部に所属してトラック競技の全国大会を目指している。 毎日、早朝の朝練と放課後の部活動。 だから、妻が海外勤務で家を留守にしているいまは 私が朝夕の食事を支度する。 私自身、経営していた会社をリタイアして、若手に道をゆずったばかり。 だからこそできる、アスリートのアシストなのである。 (SE〜料理をする音) 娘: 「おっまたせ〜」 父: 「ちゃんと髪の毛かわかさないと、風邪ひくぞ」 娘: 「わっかりました〜」 父: いつもの、わかっていないときの言い方だな。 しょうがないなあ。 (SE〜料理を食卓に置く音)※ひとつずつSEつける 父: 「はい、鶏飯」 娘: 「わ〜、いい匂い〜」 父: 「今日はささみにシイタケ、パパイヤの味噌漬けとのりを入れてみた」 娘: 「すごつ、アスリートのレシピじゃん」 父: 「それからぶり大根に、」 娘: 「わ、旬の先取りだね」 父: 「さつまあげ」 娘: 「私の好きなものばっかり」 父: 「今日のさつまあげは、ハモのすり身だぞ」 父: 「この食卓、たくさんおかずを置いても広々としてていいだろ」 娘: 「そりゃあ、アンカーの私が選んだインテリアだもの」 父: 先日までダイニングにあった食卓は、船便で妻の住む海外へ渡っていった。 その代わりにバトンを受けついたのが、この楕円形の食卓だ。 娘と2人で使うには少し大きいかもしれないが、 あえてこのサイズを選んだのには訳がある。 食卓、というのは家族が集まる場所。 大きな食卓と座り心地のいいチェアでゆったり時間を過ごす。 食卓を中心に、家族が向かい合って、家族の時間を大事にする。 こうやって、家族の絆=ぬくもりを大切に守っていきたい。 いつまでも・・・ 娘: 「パパ、陸上トラックの全国大会、見にきてくれる」 父: 「もちろんさ、リレーはアンカーなんだろ」 娘: 「そうだよ、3位以内でバトンを渡してくれれば、 絶対にトップに出る自信はある!」 父: 「そりゃ頼もしいな」 娘: 「優勝したら、そのバトンはパパに渡すからね」 父: 「そんなことできないだろ」 娘: 「いいの、大会運営の人に頼んじゃうから」 父: 父親の私が言うとただの親バカになるが、娘はすごい。 大会当日、本当に1位になり、私にバトンを渡してくれた。 そのバトンは、娘が24歳になったいまも食卓の上を飾っている。 <娘24歳/父67歳> (SE〜玄関が開く音/引き戸) 娘: 「ただいま」 父: 「おかえり」 ...
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    8 mins
  • ボイスドラマ「父の運動会〜食卓のバトンリレー」前編
    Feb 6 2025
    父と娘の絆を「バトンリレー」と「食卓」を通して描いた、温かくて少し切ない家族の物語です。幼いころの運動会の思い出、成長した娘との食卓を囲む日常、そして母への想いが交差する中で、家族の絆がどのように受け継がれていくのか——。 本作は 前後編の二部構成 となっており、前編では 8歳の娘と51歳の父、16歳の娘と59歳の父 を軸にしたエピソードをお届けします。ぜひ、娘と父のやりとりを通して、「家族の温もり」を感じていただければと思います。 さらに、この物語は ボイスドラマ化 もされています!Spotify、Amazon Music、Apple Podcast をはじめとする各種Podcastプラットフォーム、そして 服部家具センター「インテリアドリーム」 の公式サイトでお聴きいただけます。音声だからこそ伝わる空気感や臨場感を、ぜひ楽しんでください。 それでは、物語の世界へどうぞ。 【登場人物】 ・娘(8歳/16歳)・・・高校=陸上部のアンカー/現在=スポーツインストラクター(CV:桑木栄美里) ・父(51歳/59歳)・・・自ら経営する会社を引退後地元に請われて市会議員に(CV:日比野正裕) 【Story〜「父の運動会〜食卓のバトンリレー/前編」】 <娘8歳/父51歳> (SE〜運動会の音/歓声) 娘: バトンを持った父が先頭集団を抜けて私の元へ走ってくる。 汗をいっぱいかきながら、満面の笑みで私に手渡す。 父: 「あとはたのんだぞ!がんばれ!」 (BGM〜) 娘: 運動会の親子リレー。 44歳年が離れた父は、友達のお父さんと比べてもかなり目立っていた。 出場するお父さんたちの中で多分一番年長。 だけど、運動神経は誰にも負けていない。 そんな私たちを見て、観覧席から母が一生懸命手を振る。 8歳の私と51歳の父。 あのときの父の姿は、記憶の中の宝物だ。 <娘16歳/父59歳> (SE〜キッチンの音) 娘: 父が会社からのリタイアを決めたのは、私が高校へ進学した年。 朝早く私の弁当を作りながら 若手へバトンを渡すんだと喜しそうに笑った。 母は仕事で海外勤務となり、父と2人だけの生活。 私はというと、中学から始めた陸上トラック競技に夢中だった。 朝練から放課後の部活まで、走っている時間が一日のうち一番長い。 父: 「今度のリレーはアンカーなんだって?」 娘: 「うん」 父: 「じゃあ、食事も気をつけないとな。パンをやめてご飯にするか。 炭水化物が重要なんだろう」 娘: 「それは長距離走でしょ。私は短距離。 スプリンターだから今まで通り、パンにヨーグルト、グラノーラでいいよ」 父: 「そうか。お父さん、会社やめたら時間がいっぱいできるから一緒に朝走るかな」 娘: 「やめてよ。年を考えて。 それにさ、毎日私に付き合ってこんな朝早くに起きなくていいから」 父: 「そんなことしたら、お前が栄養とれないじゃないか」 娘: 「大丈夫よ。コンビニでも、カロリー考えて食べ物選ぶから」 父: 「そうかあ、それなら明日から朝寝坊するかな・・・」 娘: そう言いながら、きっと明日の朝もキッチンに立っているのだろう。 私は食卓に並べられていく朝食を眺めながら父の後ろ姿を見つめる。 父: 「そうだ、忘れていたけど、今日部活のあとで 家具屋さんに付き合ってくれないか」 娘: 「いいけど・・・、家具買うの?」 父: 「実はな、海外にいるお母さんから、 うちの食卓を送ってほしいって言われてるんだ」 娘: 「なにそれ? ママが住んでるところ、家具つきのコンドミニアムじゃなかった?」 父: 「どうも備え付けの食卓が気に入らないらしい」 娘: 「そんなぁ」 父: 「ああ、だから最初がまんしてたらしいんだけど、 住んでるうちに、どうしてもこの食卓を送ってほしくなったんだって」 娘: 「おんなじような食卓、海外のインテリアショップにもあるでしょ」 父: 「この食卓じゃなきゃだめだそうだ」 娘: 「えー大変だよ。送料だって馬鹿にならないじゃん」 父: 「そりゃ、そうだけど」 娘: 「でいつ送るの?」 父: 「もし今日、新しい食卓を決めたら、入れ替わりにこれを送るよ」 娘: 「えええええ!同じ食卓を買って送るんじゃないんだ」 父: 「お母さんはいま使...
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    7 mins
  • ボイスドラマ「食卓より愛をこめて」後編
    Feb 5 2025
    この物語は、家族の絆を「食卓」を通じて描いた、少し懐かしくて温かいストーリーです。登場するのは、一人娘と父、そして母。日々の生活の中で変わるものと変わらないもの――その象徴として「豚汁」が登場します。 豚汁は、日本の家庭で愛される料理のひとつですが、それぞれの家に「味」があるように、それを囲む家族にもそれぞれの「想い」があります。誰かと一緒に食卓を囲むこと、作る人の気持ちを感じながら味わうこと。それは何気ない日常のひとコマかもしれませんが、実は人生の大切な瞬間でもあります。 本作では、そんな「食卓の魔法」が生み出す家族の物語を、心を込めて綴りました。豚汁の湯気の向こうに浮かぶ、それぞれの想いを感じながら、ぜひ最後までお楽しみください。 ◾️登場人物 ・母(54歳/47歳)・・・看護師/名古屋市内の総合病院のERで働く(CV:桑木栄美里) ・父(56歳/49歳)・・・一級建築士/東三河地区で不動産会社を経営(CV:日比野正裕) ・娘(18歳)・・・看護師/名古屋市内の総合病院のERで働く(CV:桑木栄美里) <父56歳/母54歳> (SE〜料理音/包丁で野菜を切る音など) 母: 「ねえあなた、あの娘からきいた?」 父: 食卓に座る妻が、キッチンの私に声をかける。 父: 「なにを?」 私は料理の手を止めずに、妻の方を振り返る。 妻は、少しいじわるそうな笑顔で私の顔を見つめる。 母: 「私たちに会わせたい人がいるって話」 父: 「あ、ああ。聞いてるよ」 私は、つとめて冷静を装いながら答えると、 すぐにキッチンの方へ向きなおった。 妻は体を大きく乗り出し、私の方を覗き込むようにしてまた声をかける。 母: 「だいじょうぶ?」 父: 「な、なにが?」 母: 「あなたの包丁のリズム、長調から短調に変わったわよ」 父: やっぱり、親子だな。 娘と同じことを言う。 あ、いや、感心してる場合ではない。 父: 「なにばかなことを言ってるんだ。 さ、豚汁できあがるから」 母: 「あら、今日も豚汁なの?」 父: 「え」 母: 「あの娘がうちに顔を出した日から、毎日豚汁作ってるわよ」 父: 「え、そうだったかな」 妻がくすくすと音を立てないようにして笑う。 私もそれにつられて、笑う。 実は、我が家の食卓には、私が決めたルールがある。 それは、”食卓に座ったら笑顔になること”。 例外はない。 悲しいことがあったときも、辛いことがあったときも、 とりあえず、食卓に座ったら、難しい顔や怖い顔はやめる。 笑えなくても、口の端を上げる。 不条理なルールかもしれないが、 一応、妻も娘もちゃんと守ってきてくれた。 母: 「そういえばあの娘が家を出る前の一ヶ月間も、あなた毎日豚汁作ってたわねえ」 父: 「え、覚えてないな」 母: 「あら、そう」 父: もちろん覚えている。 <父49歳/母47歳/娘18歳> あれは、娘が大学へ入学する前だった。 私の作る豚汁が食べたい、と、子供の頃のようにせがむ娘。 瞳をうるわせて訴えてくるものだから、私も心をこめて毎日作った。 (SE〜料理音/包丁で野菜を切る音など) 父: 「知ってるかい?豚汁っていうのは意外と奥が深いんだぞ。 まず、鍋に水を入れて火にかけ、沸騰したら一旦湯を捨てるんだ。 それからもう一度新しい水を入れる。 こうすると、スッキリとしたスープに仕上がるんだよ。 具材もただ煮るだけじゃないぞ。 ごぼうは皮をむいて縦に薄切りにしたら、水にさらしてアクを抜くんだ」 娘がまもなくここからいなくなる。 その寂しさを紛らわすように、私は饒舌になる。 娘は黙って、だが、我が家のルールを順守し、笑顔で私の話を聞く。 母: 「パパの豚汁も、あと何回食べられるか、わかんないものね」 父: 「縁起わるいこと言わないでくれよ。 外国へ行くわけじゃないし、 食べたくなったらいつだって帰ってくればいいじゃないか」 母: 「パパの豚汁がこんなに美味しくなったのも、 あなたが子供の頃にいつも豚汁をおねだりしたおかげね」 父: 私たちの会話を、娘はだまって聞いていた。 うるんだ瞳で、口角を上げて、微笑みながら。 母: 「そういえば、この娘...
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    10 mins
  • ボイスドラマ「食卓より愛をこめて」前編
    Feb 5 2025
    皆さん、こんにちは。本作『豚汁の香り〜食卓より愛をこめて』に目を留めていただき、ありがとうございます。 この物語は、家族の絆を「食卓」を通じて描いた、少し懐かしくて温かいストーリーです。登場するのは、一人娘と父、そして母。日々の生活の中で変わるものと変わらないもの――その象徴として「豚汁」が登場します。 豚汁は、日本の家庭で愛される料理のひとつですが、それぞれの家に「味」があるように、それを囲む家族にもそれぞれの「想い」があります。誰かと一緒に食卓を囲むこと、作る人の気持ちを感じながら味わうこと。それは何気ない日常のひとコマかもしれませんが、実は人生の大切な瞬間でもあります。 本作では、そんな「食卓の魔法」が生み出す家族の物語を、心を込めて綴りました。豚汁の湯気の向こうに浮かぶ、それぞれの想いを感じながら、ぜひ最後までお楽しみください。 登場人物 ・娘(25歳/5歳)・・・看護師/名古屋市内の総合病院のERで働く(CV:桑木栄美里) ・父(56歳/36歳)・・・一級建築士/東三河地区で不動産会社を経営(CV:日比野正裕) 【Story〜「豚汁の香り〜食卓より愛をこめて/前編」】 <娘25歳/父56歳> (SE〜料理音/包丁で野菜を切る音など) 娘: キッチンカウンターからリズミカルな包丁の音が聞こえてくる。 まるでショパンの子犬のワルツのように楽しげな長調で・・・ (BGM〜子犬のワルツ/ショパン) キッチンに立っているのは、昔から変わらない、笑顔のパパだ。 私が実家に立ち寄るのは・・・そうか、2年ぶりかぁ。 パンデミックの真っ最中に新人看護師となった私は 世の中が落ち着くまで、盆も正月もなく働いた。 父: 「おまえの顔を見るのなんて、5年ぶりくらいじゃないか?」 娘: 「失礼ね。2年ぶりよ・・・(最後は小さい声で)」 父: 「パパ、たまたま今日は豚汁の準備していたから・・・ ラッキーだな」 娘: ウソばっかり・・・ ママから聞いてるんだよ。 パパ、豚汁の準備だけは毎日してるんだって。←※ここ、モノローグです <娘5歳/父36歳> 自他共に認めるパパの得意料理は、”豚汁”。 その一番の支持者は昔から私と決まっている。 朝も昼も夜も、豚汁を作ってほしいとおねだりする私に、 パパは飽きもせず作り続けてくれた。 娘: 「だって、パパの豚汁毎日食べたいんだもん」 (SE〜料理音/包丁で野菜を切る音など) 父: 「そうかそうか、じゃあお前の大好きなさつまいもを、 たっぷりと入れてやるからな〜」 娘: 「やったぁ!」 父: 「さつまいもは、豚汁の味をまろやかにして、甘〜くしてくれるんだよ」 娘: 「ふうん」 父: 「お肉はもちろん、黒豚だぞ」 娘: 「わぁ〜」 父: 「お前が苦手な脂身は、 ダシが染み渡ったらとり除いてやるからな」 娘: 細切りにした黒豚。 皮をむいて薄切りにしたさつまいも。 これに、薄切りのにんじんとしいたけ、 縦にせん切りしたごぼう、 一口大のこんにゃくと油揚げ、 小口切りの長ねぎが色を添える。 これがパパお手製の豚汁のレシピだ。 父: 「さあ、できたぞ〜。 お前のためだけに作った、特別な豚汁だ」 娘: 「わ〜い!」 父: 「ほかほかのごはんもいっぱい食べるんだぞ」 娘: 「はぁい!」 父: 「さあ、いっしょに食べよう」 (SE〜椅子をひいて座る音) 娘: パパは食卓で必ず私の右前に座る。 さほど大きくはない長方形のダイニングテーブル。 長辺の真ん中に座る私と、対面の少しキッチン寄りに座るパパ。 どうしていつもそこなの、ときいたら、 父: 「この位置からお前を見ていたいんだよ」 娘: と、即答してくれた。 それは20年前もいまも変わらない。 <娘25歳/父56歳> (SE〜料理音/豚汁が煮だっている音など) 父: 「さつまいもも黒豚もちゃあんと入ってるからな」 娘: パパの背中を見ながら、私は食卓の一番前で豚汁を待ちのぞむ。 父: 「さ〜あ、できたぞ。いっしょに食べよう」 (SE〜椅子をひいて座る音) 父: 「今日はなにをしていたんだい?」 娘: 「ぷっ・・・」←※笑い 父: 「なんだ、どうしたんだ?」 娘: 「変わらないなあ、と思って...
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